オレンジ色の外灯が、雨に濡れたアスファルトを照らす高速バス乗り場。
少し肌寒い風を受けながらベンチに座り、降り続ける雨と共にバスを待つ、
スーツを着た男性と一組の男女、そして若い女性と自分。
プレイリストの最初の曲が再生されたところで、目的のバスが顔を見せる。
スーツ姿の男性から順番に乗り込み、一組の男女は女性が男性に別れを告げ、
そのあとに続いて若い女性と自分も薄暗いバスに乗り込んだ。
結婚式の招待状が届いたのは、一ヶ月ぐらい前だっただろうか。
それぞれがそれぞれの道を歩み始めてから、どれだけの歳月が流れたのだろうか。
そんなことを考えながら招待状の封を開け、少しだけ昔のことを思い出しつつ、
静かにスケジュール帳にその日の予定を書き加えた。
結婚すると自由になる時間もお金もなくなるよ、一番上の子供が小学生になるという旧友は
そう嬉しそうに話してくれた。彼に会ったのは約十年ぶりだった。
薄暗い静かな車内には、低いエンジン音とフロントガラスを叩く雨の音だけがしていた。
僕は曲のボリュームを少しだけ上げ、それらの音を打ち消し、すべてを遠い世界の風景にする。
高速道路に一定間隔で置かれているオレンジ色の外灯が、雨に濡れたアスファルトと
そこに引かれた白いラインを暗闇の中に映す。
一定間隔で通り過ぎる風景のリズムをぼんやりと眺めながら、曲とそのリズムが
次第にシンクロしてはズレていくのを何回か繰り返した。
懐かしい名前を久しぶりに聞いた。
高校で教師をしているという彼は、あの頃の面影を残しつつ大人になっていた。
高校時代の担任の先生にも久しぶりに会った。
同級生だった教え子が教育実習を受け、そして今は同じ職場で働いているという。
時間はゆっくりと流れ、世界を確実に変え続けている。
気が付くと雨は先ほどよりも少しだけ強くなっていた。
フロントガラスのワイパーは、休み無く一定のリズムで忙しなく働き続けている。
車内の蛍光色のデジタル時計は淡々と時を刻み続けていた。
アルコールが残った頭に、ぼんやりと聴きたい曲が思い浮かんだ。
一ヶ月前にスケジュール帳に引いたその日は当たり前のように過ぎ去り、
ハードディスクの数年前のデータのように思い出になった。
次に彼らに会えるのはいつになるのだろうか。
暗い車内でデジタル表示の画面を見ながらプレイリストの一番最後で
再生ボタンを押した。少しの間を置いて曲が再生され始めた。
高速バスがトンネルに入り、オレンジ色の光が車内を照らす。
愛を歌うその曲を聴きながら、目をそっと閉じると瞼の上をオレンジ色の蝶が舞った。
少しだけ穏やかな不思議な時間が流れる。
僕はシートに体を預け、夢が醒める前に深い眠りに着くことにした。