WSJ Magazine: Alber Elbaz's Soapbox
WSJ Magazineに掲載されているAlber Elbazのインタビューがとても面白かったので、いつものようにエディットして少し書いておきます。彼が話している内容はいずれも首肯できて、Lanvinというブランドと彼は一心同体なんだなというのがとても伝わってくるインタビューですね。自身のチャーミングな体型とクリエイションの関係性の部分については思わず笑ってしまいましたけれど。
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モロッコ生まれのAlber ElbazはニューヨークのGeoffrey Beeneでそのキャリアを本格的に開始し、1997年にパリに移住する。そして、Yves Saint LaurentではGucciグループが同ブランドを買収したことをきっかけに短期間でTom Fordにリプレースされることになり、最終的に彼は当時、ブランドとして辛うじて息をしていたLanvinへ移ることになる。
2001年にエルバスがデザイナーに着任してからLanvinはほとんど一夜にして復活を遂げていく。ミステリーとウェアラビリティの珍しい組み合わせに、デザイナーの感受性を反映した服たち。直観と感情をクリエイションの起点にする彼はトレンドを頑なに無視すると言う。
自分自身のことを「美しいホテルのコンシェルジュ」に例えるエルバス。それは、ゲストとあまり親しくすることをせず、Lanvinのスター・クライアントの注目を集めるようなソーシャルライフを避ける方が顧客が求めるものを想像することができて良いからなんだとか。メディアに露出し、作品よりも自分が前に出るような創り手ではなく、あくまでも裏方に徹し、主役である女性を美しく描くことにフォーカスするというのは、Lanvinというブランドを見ていればとてもよく感じることですね。
以前はデザイナーが他のデザイナーを嫌っている時代があったが、今日のデザイナーは互いのストレスの多い境遇を理解し合い、お互いにリスペクトし合っているという。そしてそれはある種のファミリーのようでもあると話す。ちなみにエルバスが唯一、ジェラシーを感じる人たちは、「食べても太ることができない人たち」とのこと(笑)。
ファッションがファミリー・ビジネスであった時代が過去にあった。しかし、現在のファッションは非常に巨大で肥大化してしまっているという。クリエイションにおいてとても重要なことはミスが許される環境がそこに存在しているかにあり、ファミリー・ビジネスであった時代にはミスを犯してもそこから多くのことを学びやり直すことができる世界があった。
Lanvinのデザインスタジオには役職などの階層が存在せず、誰もが一緒にランチを食べ、スタジオには一体感があるという。もしあなたがある組織の中で真実を知ることを望むならば、あなたはその組織の中の最下部にある(物事の起こる)現場に行かなければならないとエルバスは話す。組織の上層で真実を探そうとするならば、大抵、それはフェイクしか見つからないのだと。
そう話す彼は、ファッション・インダストリーが今よりも小さくなって、デザインやクリエイティビティの世界に戻る時間であると言う。それはマーケティングではなく、直観と感情への回帰、創造性の再生についてであり、仕事の本質とは人々を喜ばせることにある、と。
ファッション産業の肥大化とクリエイティビティに関する話は、過去にあったSarah BurtonとGuido PalauのInterview Magazineのインタビューでも出てきた話題ですね。巨大化する産業とは対称的に創造性とは本当に数人の小さな関係性の中で発揮されるものだというのは正にその通りと言えるでしょうか。
Lanvinにおいて所謂「ミューズ」が存在しないのは、ある一人の女性のためにコレクションをしている訳ではないからであって、彼は様々な女性や年齢、異なる体型や人種のためにコレクションを制作しているという。そして、デザイナーに必要なことは幼児のようなアンテナであり、デザイナーとは子供っぽくてナイーヴであるとのこと。デザイナーは物事のある瞬間を捕え、それを仕事の中に反映させることをしなければならないと彼は説明する。子供や家族を持たないエルバスは服をデザインしているとき、それは新しい家族をつくっているように感じると話す。
今日の世界においてモダンでクールなものとは、どこかに醜さを含んだものである。だからと言って(純粋な)美しさというものが時代遅れかという言えば決してそうではなく、美しさとは誰もが探しているものだとエルバスは言う。
美しいものに触れること、それは女性に美しさを感じさせる。そして、美しさは女性に強さとパワーを与える。美しさとはこの世界のどこかにある天然物質の一つであり、彼が知っている唯一の表現方法である。
時々、女性は自分自身を抱きしめるためにシフォンのドレスを必要とする。そして、ドレスがその女性を抱きしめ、ドレスが自身のことを愛していると感じるなら、その女性は強さと共に自分が守られていると感じるでしょう。
ある女性は彼女がLanvinを着る度に男性が彼女と恋に落ちると話し、ある女性は離婚で夫の弁護士に対面するときにLanvinを着ていたので自分は守られていると感じたという。この2つのエピソードはいつもエルバスが帰る場所であり、「男性を女性と恋に落ちさせることができ、そして、女性を守ることができるならば、私は穏やかに死ぬことができるでしょう。」とのこと。
彼のボスであり、家族でもあったGeoffrey Beene。エルバスもビーンもオーバーウエイトであるという共通点があったので、二人のファンタジーは「軽さ」にあったという。そしてそのファンタジーによって彼は、Lanvinのコレクションでとても軽い服をつくっているのだとか。だから、もし彼がダイエットをしてしまったら重い服をつくることになるかもしれないので、彼は痩せるのがとても怖いとのことです(笑)。