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Balenciaga by Nicolas Ghesquiere and Alexander Wang

年末ということで普段よりも時間もあることですし(それに今日の東京は雨ですし)、今まで特に書いていなかったBalenciagaのデザイナー問題について少し書いておきます。

11月5日に突然発表されたBalenciagaとNicolas Ghesquiereが彼らのパートナーシップを終えるというプレスリリースですが、これまでBalenciagaというブランドとNicolas Ghesquiereは表裏一体の関係にあったので、この突然の発表はとても驚きましたね。Nicolas Ghesquiereの辞任の理由は、もっとビジネスを意識したコレクションを経営陣から要請されたことやPPRのHedi Slimaneへの特別待遇にあるという話が報じられていましたが、真実はどうなのでしょうか。
後者の理由に関しては、Nicolas Ghesquiereのチームメンバーの一部がHedi SlimaneのSaint Laurentチームのメンバーとして働くために去ったという報告もあり、5年間ファッションデザインの世界を離れ、しかもウィメンズのコレクションをしたことが無かったエディがSaint Laurentで多くの自由を与えられ、その余波を自分が受けることに不満があったというのは辞任することを決定付けたのかもしれません。

そして、彼がLVMHの資本でシグネチャ・ブランドをスタートさせる可能性がCathy Horynらによって言及されていますが、そこには大きな投資と共に大きなリスクが伴いますね。ラグジュアリーな世界におけるプレーヤーというのはある部分で完全に飽和しているので、もし新しいブランドを始めるとしても他とは違う決定的な何かが無いと成功は難しいでしょう。いくらニコラでもゼロから何かを生み出すというのは簡単にはいかないでしょうし、Balenciaga時代の焼き直しをやっても意味が無い訳ですから。エディがシグネチャではなく、YSLに戻ったのもそういう理由が多かれ少なかれあると思いますし。過去の遺産を自由に使える既存ブランドのデザイナーになる方がゼロから何かを構築するよりもビジネスとクリエイションの両方のリスクをある程度ヘッジできると言えますね。

Balenciagaの後任デザイナーとなったAlexander Wangに関しては、昨年、ニューヨークに旗艦店をオープンさせ、その後も世界的に直営店を増やしてビジネスを拡大し、シグネチャが順調に歩みを進めている中での就任となりました。彼の13SSコレクションのレビューの際、将来的にニューヨークからパリに発表の場を移すのかどうか?ということを個人的な感想として書きましたが、まさかBalenciagaのデザイナーとして彼がパリコレクションに参加することになるとは夢にも思わなかったですね。

彼のデザイナー就任は多くの識者が指摘するように、Balenciagaのコレクションから重みが失われ、より分かり易くストリート寄りのヒップなコレクションに近くなってしまうのではないか?という疑念が確かにあるかなと思います。彼はとても器用なデザイナーなので、ある一定の完成度を担保したコレクションを提示してくると思いますが、Balenciaga by Nicolas Ghesquiereは完成度よりもクリエイティビティを優先した実験的なコレクションがその特徴であり、その作品強度がまさしくパリコレクションというシチュエーションに合致していたのだと思います。同じことはAlexander Wangのシグネチャにも言えることで、カジュアルさ(軽さ)を良いものとするニューヨークという場で作品を発表していたからこそ、彼はそこで評価を得ることができたのですよね。

よって、ニューヨークと同じような考え方でパリでコレクションを行うとすればきっと上手くいかないと思われるので、その辺を彼がどのようにバランスさせるのかというのが注目すべきポイントになるでしょうか。就任後の最初の数シーズンは様子見になると思いますが、その後は面白いクリエイションに期待したいですね。
もし仮に彼がBalenciagaで上手くいかなかったとしてもAlexander Wangというデザイナーにとってこの唯一無二の機会は良い経験になるでしょうし、多くのことをそこで学ぶことができればその後のデザイナー人生の大きな糧になることは言うまでもありません。何よりも彼はまだ若いのですし、ね。

翻って、Nicolas Ghesquiereの今後の動向は個人的にとても気になります。Balenciagaのデザイナーのママでいて欲しかったという気持ちが今でも自分はありますが、過ぎてしまったことなのでもう何を言ってもしょうがないですね。クリエイティビティというものをきちんと理解した上でそれを実現できる創り手というのは世界的に見ても希少な人材なので、どういった形になるにせよ、モノづくりを続けて欲しいかなと思います。
ノブレス・オブリージュという言葉があるように、「才能ある人間はその才能を世界のために使う義務を負う。」のですから。

posted by PFM