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Fashion Overshoot Day

Suzy MenkesによるT Magazineの"The New Speed of Fashion"というアーティクルについて、内容的には(以前から業界で言われている)ファッション業界の速度が速過ぎてデザイナーはその犠牲(John Gallianoの失墜やAlexander McQueenの逝去など)になっているという指摘になっています。

ホットで若いロンドンのJ.W. AndersonのデザイナーであるJonathan Andersonは、ビジネスを開始してからわずか5年という期間にも関わらず、彼のスタジオには12人のスタッフがおり、1年に4つ以上のコレクションを濫造して彼が「ファッション・トレッドミル」に本当に参加しなければなりませんか?とSuzy Menkesは問いかけています。

LanvinのAlber Elbazの話も紹介されており、以前はショーのインスピレーションのために旅行に行ったり、ダウンタウン・ギャラリーに足を運んだりしていた彼だが、コレクションの数が2倍になった現在はバーチャルなもの以外の旅行をする時間が取れない、と溜め息混じりに話していたのだとか。

ビッグ資本の企業だけが1年に2回の大作としてプレタポルテのショーを催す余裕があり、オートクチュールをそこに加えれば年4回となる。メンズウェアを加えると年6回となり、更にリゾートとプレフォールを足せば年8回で、アジア、ブラジル、ドバイorモスクワの2、3のプロモーション・ランウェイショーがあるとすれば年10回になります。これは、ホリデー・シーズンとサマー・ブレークを除けば毎月どこかでショーが行われていることを意味します。
しかし、誰がより多くのファッションを必要とし、更なるショーを欲していますか?多作であったピカソでさえ、工場で焼かれるクッキーのように作品を濫造しなかったとすれば、どのようにしてデザイナーはこの問題に対処することができるでしょうか?それは重圧下に晒されているというだけであって、クリエイティブなことではありません、と彼女は指摘します。

先日、国際シンクタンクであるGlobal Footprint Networkから2013年の「アース・オーバーシュート・デー」は、8月20日であったと発表されたことが報じられていましたね。「アース・オーバーシュート・デー」とは、「人間による自然資源の消費量が、地球が一年間に再生産できる量をほぼ超えた日」のことを指しています。つまり、8月20日以降に人間が消費する自然資源というのは未来の資源を食いつぶすことを意味しており、サステナブルでは無いということになります。

同様に、ファッション・デザイナーのリソースやアイデア資源にも限りがあり、現在のファッション業界のスピードは持続可能性が乏しいということをSuzy Menkesはアーティクルの中で指摘していると言えるでしょう。理想的には、1回のコレクションを行った後、デザイナーは精神的にも肉体的にもかなり疲弊をしているので、それが回復するまで次のコレクションに取り掛かるべきではないと言えるでしょうね。その回復を待つことなく、次から次へと作品を強制的につくらされる状況はクリエイティブでも何でもなく、トレッドミルの上を精神か肉体が壊れるまで走らされているだけだという指摘は同意できるでしょうか。

コレクションの制作期間が短くなるとそれだけ作品の濃度は薄くなり、過去作品の焼き直しやファッション以外のアートや音楽といった外部要素の引用で糊口をしのぐことにもなり易いかなと思います。メンズコレクションのアイデアをウィメンズコレクションに流用するといったことも、ブランドとしての統一感を出すため以外にもこういった制作環境の理由が挙げられるでしょう。ファッションが数年毎に流行を繰り返す理由は、案外こういう環境の影響が大きかったりするのかもしれないですね。

ここまで書いてきて思うことは何もこれはファッション業界に限った話だけでないということでしょうか。ブラック企業という言葉が昨今、話題になっていますが、グローバルに社会の回転速度が増し続ける中で企業の無目的な利潤追求の結果として労働環境が悪化し続けるという問題はどの業界にも見ることができますね。

この問題を解決するためにはデザイナー自身が声を上げるなりしなければ解決しない問題かなと思います。いつまでもチキンレースをしていても意味がありませんから。そういう状況に耐えるだけのインセンティブとステータスがあるのかもしれませんが、デザイナーであることにアイデンティティを感じているつくり手というのは少し違うのでは無いかなと思います。ハリウッドにはユニオンがありますが、同じようなものが必要なのかもしれないですね。Anna Wintour辺りが興味を持ちそうな話題だと思うのですが、コレクションの数が減るとVogueの売り上げに影響が出そうなので手を出せない問題だったりするのでしょうか。

現在のファッション業界において要求される終りのない「新しさ」の代償として多くのデザイナーが苦しむのだとすれば、それは多くのFashion Loversの望むところでは無いはずです。疲れたら壊れる前に休むというのは何もデザイナーに限ったことではなく、誰にでも言えることでしょう。自分が何のためにそれをしているのかが見えなくなってしまったとしたら、少し立ち止まってみることがきっと人生には必要ですね。デザイナーも神様では無いので。偶にクリエイティブ系の職種で前近代的な精神論を唱える輩もいますが、個人的にはナンセンスだとしか思わないですね。作品に愛情を注ぐことは自発的にされることであって、誰かに強制されるものではありませんので(愛とはそういうものですよね)。

ファッションを愛する多くの人たちがブティックで買いたいと思っているものは、血や涙でできた作品などではなく、たとえ生みの苦しみがそこにあったとしても最後には笑顔で創り手に送り出された作品なのですから。

posted by PFM