This is Not here - *//LIKE TEARS IN RAIN

Chanel Pre-Fall 2014 Paris-Dallas Metiers d'Art Collection

米国テキサス州のダラスにあるFair Parkで、ロデオの競技場をランウェイにして行われたKarl LagerfeldによるChanel Pre-Fall 2014 Paris-Dallas Metiers d'Art Collection。
Coco Chanelが1954年にファッション界に復帰した際、フランスでは冷ややかな反応しか得られなかったのに対し、米国ではそれを評価して1957年にNeiman Marcus Fashion AwardをCocoに贈り、Chanelの復活を支える役割を果たしたというエピソードが今回のコレクションのベース・ストーリーになっていますね。Neiman Marcus Fashion Awardについては、今回のショーに合わせて復活し、Karl Lagerfeldが受賞をしたようです。

カールによれば今回のコレクションは、「ダラス・チアリーダーではありません。」「南北戦争時代におけるメキシコ国境の西部地方で、よりロマンティックなテキサス・ファンタジー。」とのこと。Nicole Phelpsが書いているように今回のコレクションの領域は、歴史的にRalph Laurenのファッション・テリトリーになりますね。

Coco Chanelがダラスを訪れた際に着用していたジャケットとスカートの再現、レザーとツイードのコンビネーション、カントリー・スタイルのプレーリー・ブラウスにはデニムを合わせて、カウボーイ・ブーツにハットやバンダナ、インディアン・ポンチョにナバホ・パターンのニットウェア、リボルバーやアステカの影響を受けたアクセサリー、など。テキサスのローン・スターやフリンジも多用されていましたね。

ダラスでカウガールでインディアンなコレクションを行うというのは、あまりにもステレオタイプな感じもあったかなと思います。メティエダールコレクションは世界各地の歴史やCoco Chanelの人生との関係性をベースにして行われるので、どうしてもそうなってしまう部分があるのかもしれませんね。アーティストが他のアーティストの曲を歌って制作したカバーアルバムのような雰囲気をコレクションを観ていて少し感じてしまいました。「アトリエの技巧をフィーチャーする。」というメティエダールコレクションの趣旨に鑑みれば、テーマはある意味単純である方がクラフトマンシップに意識がいくので良いのかもしれませんけれど。

スパゲッティ・ウェスタンやインディアンには特有のコードがあり、また、Chanelにもツイードやカメリアといった特有のコードが存在する。人間が意思疎通をするために用いる自然言語とは、記号と意味をセットにして体系化したものであり、それを日本語や英語といったように我々は呼ぶ。自然言語は方言やスラングといったものを包摂し、時代と共に揺らいでいくことで記号と意味の体系は変質する。同様に、人間とコンピュータが対話をするために生まれたものがプログラミング言語であり、これらの意味も言語のバージョンによって変化をする。

ファッション言語の世界においても同様に記号と意味がセットになった体系(コード)が存在する。ある地域におけるある時代のコード、冠婚葬祭といった儀式に纏わるコード、ある特定集団や民族のコード、など。同じ素材を用いた同じようなアイテムでも使用されるコンテクストが異なれば、その意味や役割は自然言語と同様に変化をする。また、ChanelのツイードやChristian Diorのバー・ジャケットといったものは自然言語で言えばジャーゴンのようなものであり、プログラミング言語で言えば予約語のようなものとも言える。

そういった多種多様なコードを自由自在に操る類いまれな能力をもった人間を我々は一般的にデザイナーと呼ぶ。フレンチ・シックなファッションであったり、イギリスのトラディッショナル・ファッションであったり、日本の伝統的な和服や着物であったり・・・、記号の組み合わせによって意味や雰囲気を自在に醸成する能力。

ただし、既存のコードの組み替えのみに終始するデザイナーは一般的なデザイナーであって、平凡なデザイナーとも言える。ハイエンドなデザイナーに求められるものは、コードを自在に組み替え、アーティスティックに新しい言葉を創出し、全く新しいファッション(言語体系)を構築することにある。それがこの世界のデザイナーに課せられたミッションであり、ブランドのアイデンティティとはそのようにして生み出される。

翻って、今回のコレクションの類型性は地理的要因に起因するとは言え、もう少し冒険しているLookがあっても良かったかなと思います。カールなら目隠しをしてスケッチをしても、これぐらいのコレクションはできそうな感じなのですけれど・・。プレフォールなのでカラーパレットも全体的に暗くてコントラストも低く、ウェアも重さを感じさせるものでした。Chanelの10SSコレクションもカントリーな感じのコレクションでしたが、方向性としてはあちらの方が個人的には好きでしたね。

最後に、tFS等では今回のネイティブ・アメリカンをモチーフとしたことについていろいろと炎上気味に議論がされています。fashionista.comhuffingtonpost.comでも書かれていますが、これはその歴史と人種と文化の問題であって軽率には発言できない問題ですね。正に服の「コード」の問題と言えるでしょうか。同様の問題として、2012年のVictoria's SecretにおけるKarlie Klossが着用したネイティブ・アメリカンのヘッドドレスの件(最終的にVictoria's Secretは謝罪をし、ショーの映像からカーリーのLookを削除。)などが引き合いに出されています。
fashionista.comはこの件についてChanelのスポークスマンから謝罪のメールを受け取っていますね。コレクション自体についての謝罪ではなく、テーマが誤解されてしまったことについての謝罪のようですけれど。

これに関連するもう一つの話題としては、民族衣装に著作権はあるのか?というのがあります。(先進国の)ファッション・ブランドがある民族の文化を不正使用している、という指摘は一理ありますでしょうか。過去にLouis Vuittonのメンズラインでマサイ族のチェック柄を使用していましたが、マサイ族にロイヤリティを支払って使っている訳ではないでしょうし。
この辺の線引きはとても難しいところですが、こういった問題があることに無自覚でいることはそれはそれで問題と言えるかなと思いますね。先進国で何気なくファッションを消費しているだけでは気付きにくい問題であることは間違いないでしょう。

via wwd.com vogue.com nytimes.com

via www.annecombaz.com