This is Not here - *//LIKE TEARS IN RAIN

Saint Laurent 17SS Collection

Anthony Vaccarelloがクリエイティヴ・ディレクターに就任してから初のコレクションとなったSaint Laurent 2017年春夏コレクション。

1980年代の空気感をベースに(同ブランドの1982年のコレクションからの引用を含む。)、レザーを用いたスウィートハート・ネックライン、ロールアップされたミドルライズのカジュアルなデニム、シースルーのシャツにビスチェ、アシンメトリーのワンショルダーやワンアームのパーティードレス。シューズにはスティレット・ヒールやカサンドラをあしらったハイヒール。イヤーカフやブローチにもカサンドラを配す。

初見での印象は、(いくつかのサイトでも言及されていますが)Christophe DecarninによるBalmainっぽさを感じましたね。ベースにある80年代というのもそうですが、パフショルダーのメタリックなゴールドドレス等が分かり易い例でしょうか。ただし、デカルナンと比較すると各アイテムの作り込みが無さ過ぎて全体的に情報量も低く、かなりシンプルですけれども。カラーパレットもブラック一辺倒ということで、ランウェイも平坦な印象を受けましたね。ショーのパート毎に配色やグラフィックに変化を付けたり、差し色を巧く使うなどしてもう少し起伏が欲しかったかなと。

個人的には全てが予想の範囲内に収まるセーフティなコレクションだったので、もう少し可能性を感じさせるコレクションが見たかったですね。Vanessa Friedmanが言うように、歴史あるヘリテージ・ブランドに着任した新しいデザイナーのデビューコレクションは、ブランドの遺産を賛美することに集中するというステレオタイプな通過儀礼になりがちですが、Cathy Horynが指摘するようにSaint Laurentというブランドにおいてヴァカレロが何を表現したいのかが今回のデビューコレクションからは何も見えてこなかったと思います。
最終的な判断は数シーズンの経過が必要ですが、クリエイションの強度もストーリー性も現状では不足していますね。彼の過去のコレクションから鑑みるに漸進的な改善では足りなく、ある程度の大きな変化が必要かなと。

前任者のHedi Slimane、そして、今回のAnthony Vaccarelloですが、両者のコレクションと比較するとStefano Pilati時代の方がコレクションの完成度としては確実に高かったと言えるでしょう。クリエイションのクオリティは、デザイナー及び、そのチームメンバーの技術と知識量、ファッションに対する(偏)愛や情熱、そして、それらを支える経営側のサポートといったものに依存しますが、ピラーティと比較すると(エディは言わずもがな、)ヴァカレロは技術や知識といった基礎的な部分での不足を感じますね。技術や知識は対象への強いこだわりによって獲得されるものですが、そういったフェティッシュな部分は創り手としては必要かなと思います。

最後にもう一つだけ付け加えるとすれば、ピラーティは女性をエスコートすることができていた、ということですね。女性の内面性を理解した(しようとした)上で服を創り、女性に寄り添うことができるのならば、そこには自然とエレガンスが醸成されるものなのだと思いますが、エディよりは良いとは言え、そういった部分は依然として不足していると言えるでしょうか。

via vogue.com vogue.co.uk businessoffashion.com showstudio.com dazeddigital.com tFS

posted by PFM