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Yoshihiko Ueda - Photographer

上田義彦による「旅の記憶」展。
彼自身がキュレーターを務めているGallery 916で行われているので、竹芝まで足を運ぶことに。

竹芝埠頭のすぐ近くにある鈴江倉庫の6階にあるギャラリーはとても広く、静かで気持ちが良い空間。撮影可否に関する注意書きが特になかったのでスタッフの方にお尋ねしたところ、作品ではなく、ギャラリーの雰囲気を撮影するということであれば特に問題ないということだったので、何枚か撮影させて頂きました。こういう時、α9の完全無音の電子シャッターは他の来場者の方の迷惑にならずに撮影することができて、かなり力を発揮します。というか、自分は普段から電子シャッターしか使用しませんけれどね。

その名が示すように、今回の展覧会は彼の旅の写真を展示したもの。基本的に過去作品の再展示になっています。その中で個人的に好きだったのは、インドのヴァーラーナシーで撮られたピンボケした写真ですね。明るく抽象的な写真は、彼の写真の特長である(ありきたりな表現となるが)透明感を感じさせます。

無印良品、サントリー烏龍茶・伊右衛門・BOSS、最近であれば宇多田ヒカルを撮った南アルプスの天然水といった上田義彦のコマーシャルワークは、多くの人が意図せずとも自然に目にしたことがあるだろう。写真に限らず創作における「透明感」とは、クリエイティヴィティとコマーシャリズムの均衡点に存在する稀有な特異点である。世の多くの表現者がもがき苦しむことになるのが、自身が描きたいものと商業性とのバランスである。その両者をバランスさせる装置として透明感は機能する。

透明感の構成要素としては、被写体の透過性や透明度、彩度、ボケ、色の深みやグラデーションといったものになるが、それらは撮られた空間の空気感や湿度、シズルを受け手に伝える。人間が生きる上で根源的に無色透明の水や空気(酸素)が必須であるように、創造性における透明感とはそれらと同レベルで機能する構成要素の一つと言えるだろうか。

透明感は同時に孤独や静寂を齎しつつ、秘めた強さを内在する。柔らかさをベースとしつつも、流れる空気には強度があり、それらの混成が端正な美しさを発現させる。

2015年に行われた上田義彦の35年の軌跡を辿る展覧会"A Life with Camera"。展覧会の開催に合わせて刊行された586ページに及ぶ同名の作品集は、とてもオススメですね。Patti SmithやAndy Warhol、Annie Leibovitz、Robert Mapplethorpe、そして、北野武といったポートレートから広告写真まで、彼の多くの作品が収録されています。

posted by PFM