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The Business issue of Calvin Klein by Raf Simons

Raf SimonsによるCalvin Kleinがビジネス的に上手くいっていないと報道されていますね。
PVHのCEOであるEmanuel Chiricoによると、Calvin Klein 205W39NYCへの投資が失敗しており、Calvin Klein Jeansは価格帯が高くなり過ぎて計画通りのセールスに至っていないとのこと。第3四半期の利益は、クリエイティヴとマーケティング費用の増加から前年度の1億4200万ドルから1億2100万ドルに減少したようです。ちなみに売上高は前年同期比2.1%増の9億6300万ドルとなったとのこと

そもそもPVHはCalvin Kleinのブランド全体をRaf Simonsの支配下に置くことで、同じ世界観を持った統一感のあるブランドとしてリブランディングし、次のビジネスステージに移行しようとしたと思うのですが、それが失敗しつつあるということで軌道修正が求められているということですね。また、ハイエンドラインのCalvin Klein Collection(現在のCalvin Klein 205W39NYC)も長らくビジネスとして機能しておらず、ハロー効果を期待した単なるマーケティングラインであったのをラフによって変えたかったはずです。

Christian Dior時代にフレグランスやブティックのストアデザイン等を含めたブランド全体のクリエイティヴ・コントロールが欲しかったRaf Simons(年6回のコレクションが多すぎるという不満もありましたが。)とPVHの思惑が一致した結果の今回のプロジェクトでしたが、tFSでもいろいろ書かれているようにラフの権限の縮小は確定として、2019年8月まで契約が残っていますがCalvin Klein自体を辞めさせられる可能性もあるのかなと思います。

CEOが公にクリエイティヴの失敗をメディアに話すということは深刻であり、ラフが就任した当初からCalvin KleinのADキャンペーンを撮っていたWilly Vanderperre(スタイリングはOlivier Rizzo。)に代わって2019SSのキャンペーンはGlen Luchfordになると報道されていることもこれに関することが理由でしょう。

ラフの立場が危うくなるということは、ラフの長年の右腕であるCalvin Kleinのクリエイティヴ・ディレクターを務めるPieter Mulier。Pieterのボーイフレンドであり、ウィメンズのデザイン・ディレクターを務めるMatthieu Blazy。ラフのボーイフレンドであり、ブランドエクスペリエンス・シニアディレクターのJean-Georges d'Orazio。そして、長年のコラボレーターであるアーティストのSterling Rubyといった周囲のメンバーにもWilly Vanderperreと同様の影響が出てくることが予想されますね。そうなる前にラフは自ら辞めそうではありますが…。

PVHはCalvin Kleinを2020年までに世界売上高で100億ドル(現在は80億ドル強。)を達成することを目標としていますが、それがラフのミッションでもあります。大幅なブランド・オーバーホールによって、短期間で大幅に売り上げを上げるというのはそんな簡単には実現できませんが(それなりに業績も好調であり、ブランドイメージも確立していたCalvin Kleinというブランドにおいてなら尚更。)、創造的な自由が欲しければ数値として結果を出してスーツ(ビジネス側の人間)を黙らせる必要がありますね。

ラフはハイファッションの世界は経験してきていますが、マスマーケットの経験がほぼありません。そこでは難解で分かり辛いものではなく、ヒップな分かり易さが求められ、インテリジェントでエレガントなセクシャリティよりもステレオタイプでマッチョなセクシャリティが好まれ、デジタルメディアにおいて大衆にシェアされ、ライクされることを良しとする世界であります。
つまり、今の彼に求められていることはインディーズにおいてカルト的な人気を誇るだけでなく、メジャーでもチャートインするということであり、ミリオンセラーを狙うということ。個人的にRaf Simonsというデザイナーがそういったことを目指すべきなのかは甚だ疑問ではありますが。

恐らくそういった自分の立ち位置を認識し、ビジネス側からも求められたであろう結果の一端が、2シーズン続けてカーダシアン/ジェンナー姉妹を起用した(起用に同意せざるを得なかった、と書いた方が適切でしょうか。)18SSから18-19AWのCalvin Klein UnderwearのADキャンペーンということなのかもしれません。BoFによると、これはJustin Bieberの#MyCalvinsキャンペーンを再現しようとしたものでしたが、結果、Justin Bieberほどの成功はしていないとのこと。

翻って、ブランドをある一人の人物の支配下に置き、ウェアから香水、ストアデザインまでのあらゆるものを一気通貫でメディアミックス的に一つの世界観(アイデンティティ)を共有させるという戦略はブランドイメージとして整理された美しさと強度を持ちますが、Calvin Kleinというブランドの規模では機能しない戦略なのかもしれません。
もちろん、コアとなる世界観にもよりますが、基本的にディフュージョンラインがメインラインのブランド希薄化になりがちであるように、取り扱うアイテム数や展開するライン数が多い大規模なブランドにおいて統一した世界観というのはビジネス的にも無理があるのかなと。もしそうであれば、各ラインやアイテム毎に個別に顧客をセグメント化し、最適化されたクリエイティヴやマーケティングが必要とされるということで、ラフの就任前の状態に戻るということになるでしょうか。いずれにしてもこの短期間では何とも言えませんが…。

痛みを許容し、中長期でブランドの再構築を行うという選択をリスクを承知でPVHが取れればアレかもしれませんが、Calvin Klein全体でそれをやるのは当初から無理があったと言うべきですね。

過去の成功体験は創り手を慢心させるものであって、(就任当初から思っていますが)ラフにおけるCalvin Kleinプロジェクトは一気に手を広げ過ぎですね。それで上手くいけば良かったのですが、流石にマーケットはそんなに甘くないようです。PVHもGucciにおけるAlessandro Micheleのような役割をラフに求めたのは誤っていたと言えるでしょう。

posted by PFM