Chanel 20SS Haute Couture Collection
Coco Chanelは11歳で母親を亡くし、その後、フランスのオーバジーヌにあるシトー会の修道院で育つことになる。その幼少期からインスピレーションを得たVirginie ViardによるChanel 2020年春夏オートクチュールコレクションは、Grand Palaisに修道院の庭園をセットして行われる。
モノトーンをベースに、わずかに淡いパステルを加えたカラーパレット。コレクションのキーとなるのは、縦に長い細身のIラインを描くシルエット。
ラガーフェルドが嫌ったというクロディーヌ襟(時にスタイのように大振りとなる。祭服から取られたアミクトゥスとも組み合わされる。)のコートとブラウスに、アンクル丈のホワイトソックスとブラックパテント・シューズを組み合わせたスクールガールLook。これは、Cocoは自分のデザインを嫌っただろう、と生前話していたラガーフェルドが思い出される。つまり、前任者を超えることや時代の流れに合わせて変化することを企図するということ。
澄んだピュアホワイト・レース、柔らかさと透け感を齎す繊細なチュールのレイヤリング、連続性のある直線が美しいプリーツ。
モザイク画やタイルのような格子状のツイード、修道院のステンドグラスに影響を受けるグラフィックパターン、クチュールらしく散りばめられた宝石のような立体刺繍。
イヴニングパートではストラップレスやノースリーブによって露出した肩が夏の気分を歌い、シンプルモダンなブライドでデフィレはフィナーレを迎える。
修道女の禁欲的な厳格さと慈悲、慎み深い少女、清楚で行儀の良いスクールガール。12歳から18歳までCocoが修道院で過ごした幼少期への言及を核にしたコレクションは、膝上からフロアまで少女の成長に合わせて変化したスカートの丈や、ピーターパンカラーの襟、アンクル丈のホワイトソックスとブラックパテント・シューズなど、少女性や幼さの参照が多く見られる。
一般的にクチュールコレクションによって描かれる女性像は、ターゲットとなる顧客の年齢や社会的地位が相対的にRTWコレクションよりも上がるため、成熟した女性になる傾向が強い。Lookの完成度としても急に少女が顔を覗かせるのはそのバランスを欠いていると言え、もう少し全体調和のために追加のアイデアが必要だったと言えるでしょう。
それよりも改善すべき重要なポイントは、Virginie Viardが引き継いでからのコレクションは、巧みにつくられた服たちではあるが突き抜けた何かはなく、メゾンの遺産をなぞっただけの平坦な作品が連なるという点なのだが…。