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Miuccia Prada with Raf Simons

2020年4月2日からRaf Simonsが共同クリエイティヴ・ディレクターとしてPradaに参画し、クリエイティヴ・インプットとディシジョンメイキングにMiuccia Pradaと同等の責任を負うと発表されましたね。デビューとなるのは、9月にミラノで行われる予定の2021年春夏ウィメンズコレクションとのこと。彼がミラノに回帰するのはJil Sander以来ですね。

2018年12月にCalvin Kleinを去ったラフがこのままウィメンズの服をデザインしないというのは勿体なく、比較的クリエイティヴィティに理解を示すヨーロピアンブランドでの復帰が妥当と思っていましたが、少し前から流れていた噂通り、Pradaに参画するというのは個人的にあまりピンと来ていなかったですね。CKの辞任から一年が経過したので、競業避止義務があるとすればその効力が切れる頃なのでそろそろ動きがあるとは思っていましたが。Chanel辺りでの復帰を期待していたのですけれどね。

記者会見において、ラフは「ファッション業界は、創造性を排除してしまう可能性のある業界にますます移行しています。」「強力な創造性を無くして、強力なビジネスを持つ可能性がますます見えてきました。それは私たち、ミウッチャと私が同意しないものであり、そして、多くのデザイナーが同意しないということを知っています。この(ファッション)ビジネスでは創造性について忘れてはならないと思います。」と話したようですね。
一方、ミウッチャは「ビジネスにおける創造的な側面を強化する必要があるのは事実です。私たちはお互いが好きで、お互いを尊敬し、どこかに行こうとするなら私たちはそれが分かります。」と話しています。

Pradaグループの最近の業績は、LVMHやKeringへの売却の噂が立ちつつも、若干の好転の兆しを見せるといったレベルに留まる状況で、過去5年間で35%ほど株価が下落しており、依然として厳しい立ち場にいると言えるでしょう。今回のラフの参画にはこういった背景があるのも事実であり、クリエイティヴの強化という実質的側面と株価対策の2つの側面があると言えるでしょうね。Pradaはadidasとのコラボレーションもビジネス的側面が強い印象でしたし。

現在、ミウッチャは70歳、ラフは52歳であります。ミウッチャの引退は否定されていますが、今回のジョインが成功すればラフが実質的な後継者になる可能性が高いでしょうか。ただ、ラフはDiorを3年半、CKを2年強で辞めた前科(どちらもポジティヴな辞め方ではなかった。)があるので、なんとも言えませんね。ミウッチャは今回の契約について、「理論上、それは永遠です。」と話しています。

ミウッチャの40年来のコラボレーターで、彼女の右腕であったManuela Pavesiが2015年に逝去したというのも今回の決定に影響しているでしょうか。尚、今回のラフのPradaプロジェクトに彼の右腕であるPieter Mulierは参画しないというのも気になるところ。ピーターはラフから完全に独立するのか、Pradaプロジェクトにだけ関わらないのかは不明ですね。流石にDiorとCKがあったので懲りたのかもしれません。

2005年にラフがJil Sanderのデザイナーに就任した際、Jil SanderはPradaグループ傘下にあり、ミウッチャの夫でビジネスパートナーのPradaグループCEOであるPatrizio Bertelliとの関わりはそれ以来ということになりますが、ラフがCalvin Kleinを去った直後にPatrizio Bertelliがラフに連絡をし、今回の就任となったようですね。

「2人の成熟したデザイナーが一緒に仕事をすることを決めたのは、おそらく初めてのことだと思います。」とミウッチャは話したとのこと。Vanessa Friedmanが例に出していますが、Dries Van NotenとChristian Lacroixの1シーズン限定の2020年春夏コレクションにおけるサプライズ・コラボレーションが思い出されます。この場合、最終決定権はDries Van Notenが持っていましたが、ミウッチャとラフも平等とはいかず、デザイナーは我が強いのでどちらかが折れなければ上手く回らないような気が個人的にはしますね。

Diorの時はJil Sanderでのクチュールトリロジー・コレクションの流れがあったので個人的に上手くいくと感じており、逆にCalvin Kleinはアメリカンブランドということで否定的でしたが、今回のラフのPradaへの参画は何とも言えないというのが正直なところ。分かり易く言うとラフは癖のあるデザイナーなので、Jil SanderやDiorといったある意味、癖のないオーセンティックなヨーロピアンブランドの方が合致するタイプのデザイナーと言えるでしょう。正統派のベースのあるデザインに捻りを加える程度が過剰にならずに済むということですね。

Pradaはuglinessに代表されるように変化球的側面の強いブランドであるので、ラフとは傾向が似ています。そもそもラフは昔からミウッチャのデザインをリスペクトしていると公言しているので、ラフがPradaに影響を受けているというのが正しい言い方になりますが。

歯車が合えばクリエイションとして化学反応が起きると思いますが、そうでなければ成熟したデザイナー同士のクリエイション性の違いから早晩ダメになるでしょう。ビジネス的側面に関しても彼らの化学反応次第と言えるでしょうか。いずれにせよ、9月の2021年春夏ウィメンズコレクションを楽しみに待ちたいですね。
ただ、気になるのは新型コロナウイルスの影響で、5月21日に日本で披露される予定だったPrada 2021年クルーズコレクションが延期となっています。現時点で終息が見えていないのが、なんとも…と言ったところ。このまま感染拡大が続くとすれば、6月のメンズコレクションやクチュールコレクションへの影響も懸念され、当然、ビジネスにも暗い影を落とすでしょう。

posted by PFM