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Chanel 20-21AW Collection

緩やかにカーブした階段状の抽象的なブランド・シグネチャーであるモノトーンのショー・スペースに、ドライアイスを焚いた鏡面のランウェイ。Grand Palaisに壮大なテーマセットを構築するという前任者の伝統に変化を加えて披露されたVirginie ViardによるChanel 2020-21年秋冬コレクション。

Anna PiaggiとKarl Lagerfeldの1枚の写真をインスピレーションソースとするセブンリーグブーツとクラバット。Anna Wintourによる最初のVogue USの表紙を飾ったChristian Lacroixのジャケットを思い出させるアクセサライズなビザンチンクロス・ニットウェア。ラペルや袖に見られる波打つスカラップに、透け感を与えるレースやパーフォレーションの採用。Coco Chanelと乗馬との関係性から取られたジャケットに見られる腕章やペガサス・モチーフ、メタルボタンの連続性とサイドスリットが存在感を放つジョードプルパンツはコレクションを駆け抜ける。

前述のニットウェアは1930年代にCocoの友人で後にChanelのジュエリー・ヘッドデザイナーを務めたイタリア人ジュエラーのFulco di Verduraがデザインしたマルチーズクロスカフなどに見られるビザンチン・デザインの影響を受けたものであり、それは今回のコレクションにおけるジュエリーの主題でもある。

Rianne van RompaeyとVittoria Cerettiがおしゃべりしながら務めた1st Lookは、Hamish Bowlesが言うようにコレクションにさり気無さを齎し、気取らない、ウェアラブルでアクセスのし易いワードローブであることを示唆する。Vanessa Friedmanはそれを覗き見しているようだと評しつつ、壮大なテーマセットの欠如に関しては服に意識を集中させるという副作用を起こしているとも。

前任者であったラガーフェルドは壮大なテーマセットによってコレクションの全体を貫くアイデアを前面化する手法を常としていました。時にそれはクリエイションの弱さをカバーするためだという批判的な見方を醸成しましたが、それらが適切に機能すればコレクションに一気通貫の強度を与えるというのは事実としてありました。

今回のコレクションを含めてVirginie ViardによるChanelはクリエイティヴィティに乏しく、せめてテーマセットの力を借りる必要性があるのではないか?という問いが思い浮かぶのは自然なことと言えるでしょうか。ただ、ラガーフェルドが地に足をつけたファンタジーを描いたのに対し、ヴィアールは単にリアルを描くという作風の違いがあり、ラガーフェルドのようなある意味でカリカチュアライズとしてのテーマセットを彼女に求めるのは違うでしょうね。

Chanel本体やParaffectionの唯一無二のアトリエには適切なインプットやディレクションが必要であり、それらがあってこそはじめて素晴らしいアウトプットが期待されるということ。多くのブランドにおいて偉大なデザイナーの交代の後に見られる事象がこのビッグメゾンでも起きていることであり、デザイナーの才能というものがどれだけ稀少で代替不可能な資源であるのかということを我々に教えてくれますね。

via vogue.com wwd.com vogue.co.uk nytimes.com businessoffashion.com tFS