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What is the Fashion Critic?

少し前にパーティーも開かれたようですが、1985年からTelegraphに関わるようになり、26年間に渡って活動を行ってきたHilary Alexanderは今月末で退任となりますね。英国の年金制度に関する法律では65歳を過ぎるとフルタイムの仕事ができなくなるようです。

コレクションをトランスレートして言語化し、その背景知識や思想性を語りつつ、ブランドの過去から未来へと続くヒストリーや物語を紡ぐというFashion Criticの重要性は彼女やSuzy Menkesといった批評家の文章に触れているとよく感じることですね。そういったものが無ければファッションは本当に上辺だけの軽薄なものになってしまうことは簡単に想像できます。

創作物のクリエイティビティとは第三者が創作物からその痕跡を観測して初めて発現するものであって、制作者の作為や意識された何かによって意図的に醸成され得るものでは無いことには注意が必要かなと思います。制作者が創作の現場において唯一できることは自分がつくろうとしているものに対してただ誠実であることだけであって、クリエイティヴであろうとしたり、何か格好をつけたりするという不純な考えは本当の意味での創作の現場においては存在し得ないということ。当然ではありますが、クオリティとは泥臭いことの積み重ねでしか担保できないということです。

そうして創作されたコレクションを観測者として、クリエイティビティの欠片のようなものをつぶさに観察し、その意味と感じた感覚の一つ一つを言葉に置き換えて詳述していくという作業。縦軸(ファッションやブランドの歴史と文脈など)や横軸(他のブランドや他の創作物など)の比較を通じて対象を浮き彫りにしていくといったことがファッション・ジャーナリストやエディターの役目になるかなと思います。今ではインターネットによって誰もが批評家のようになれてしまう時代ではありますが、多くのFashion Bloggerはただ単に可愛いやカッコいい/好き嫌いといったレベルでしか物事を語れないのが実状なので、専門知識を有したファッション・ライターの必要性はまだまだありますね。Suzy Menkesに関してはこちらの記事の中でOscar de la Rentaが「多くの批評家は自身の趣味をレビューにおいて切り離すことができないが、彼女(Suzy Menkes)は自身の好みをレビューのベースにおきません。」と話しているのが印象的です。

時に厳しいレビューをすることでショーに招待されなくなったりする訳ですが(Suzy MenkesとLVMHCathy HorynとGiorgio Armaniなど)、自身の好みでもブランドやデザイナーに媚びる訳でもなく、自分の言うべきことを自覚してそれらを発信していくという姿勢はビジネスとマーケティングが全盛の今の時代においては更に貴重になっていくような気がします。ただこれは、言うべき時に言うべき事を適切に言うことに価値があるという話であって、単に空気を読まない否定的なレビューに価値があるという話では無いですね。人間の感情の原理として否定と肯定では否定の方が相対的に表出し易いと思っているので、安易な否定的なレビューは読むに値しないと個人的には思っています。
コレクションレビューの公平性という観点からかはわかりませんが、前述のSuzy Menkesの記事の中で彼女はファッション・プレスの多くのメンバーと違い、ファッション・ハウスから贈られるギフトを受け取らないと書かれていますね。彼女はそれを「女の子は花束とチョコレート以外は受け取ってはダメなの、と信じるように育てられたから。」と話しているのが素敵です。

余談になりますが、コレクションレビューを好まないデザイナーという観点で言えば最近ではTom Fordが挙げられますね。彼がランウェイショーを行わずにエクスクルーシヴなプレゼンテーション形式でコレクションを発表していることの理由の一つにはレビューによって自身の作品を解体され、シーズン到来までに消費されたくないからということがあります。個人的にその気持ちは理解できますが、Tom Fordのコレクションはそこまで強度の低いものでは無いと思うので少し神経質過ぎるのでは?と感じますがどうでしょうか。

Hilary Alexanderの後任はThe TimesのLisa Armstrongと彼女の代理を務めるLuke Leitchとのことですが、二人がTelegraphで書き始める理由にはThe TimesのPaywall(課金の壁)が影響しているかも?といった指摘もあって、なるほどねといったところ。ヒラリーの後任を務めるのは大変だと思いますが、面白い文章を期待したいですね。

Fashion Criticの系譜に関して言えば、Suzy Menkesの前任者に当たるHebe DorseyやEugenia Sheppardといった偉大な批評家も忘れてはならないですね。スージーの後任の話も遅かれ早かれ出てくる話ではありますが、可能な限り面白い文章を書き続けて欲しいなと個人的には思っています。

posted by PFM