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Raf Simons in New York

Raf Simonsがシグネチャーの2017-18年秋冬コレクションをニューヨーク・ファッションウィーク期間中の2月1日に発表すると報じられていますね。8月にCalvin KleinのChief Creative Officerに就任し、ウィメンズのデビューコレクションが同月に控えているということもあるので、それに起因したものといった感じなのでしょうか。

既報のとおり、Calvin Kleinとのラフの契約料は1年につき1800万ドル(18億円強)と言われており、Calvin Klein Collection、Calvin Klein Platinum、Calvin Klein、Calvin Klein Jeans、Calvin Klein Underwear、Calvin Klein Homeをグローバルにクリエイティヴ戦略をリードするとのことで、デザイン、マーケティング、コミュニケーション、ヴィジュアル面の全てを監督する予定になっていますね。
そして、Raf Simonsの右腕であるPieter Mulierがクリエイティヴ・ディレクターに就任し、ウィメンズとメンズのRTW、アクセサリーラインにおいてデザインチームを率いてラフのヴィジョンを具現化する役割を果たすようです。

8月の発表時に思ったことですが、ラフがCCOで、クリエイティヴ・ディレクターをピーターが務めるというのは少し寂しさを感じさせもしましたね。今までも実質的にはそうだったのかもしれませんが、ラフが総監督的な立場になり、現場はピーターというのが明確化されてしまったような感じがしたので。ラフの職掌が広範囲になるので仕方ないのだと思いますが、そうなるとRaf Simons成分がどれぐらい全体で管理されるのか?というはピーターの腕の見せ所になるのでしょう。少し気の早い話となりますが、今回のCKプロジェクトが成功すれば将来的にピーターは独立しそうな気もしなくはないですね。

ラフがChristian Diorを辞めた理由の一つとして、ブランド全体のコントロールをすることができなかったからという噂がありますが、今回のCCOの職については最初から少し担当範囲が広すぎるのではないかなとも思います。自分がやりたいこととできることの違いというのは誰にでもありますが、まずは自分のできることを核にして少しずつ領域を広げていき、自分のやりたいことに接近するというアプローチが基本フローになりますね。よって、Calvin KleinというブランドのCCOにいきなり就くというのは結構リスクが高いのではないかなと。ラフと言えども過去の成功体験がそういった方向に向かわせるのだと思いますが、そこはセルフコントロールが必要ですね。Hedi SlimaneによるSaint Laurentが事前の期待値を超えることができなかったように、何でもかんでも自分でやれば良いという訳でもないですので。
ラフがどういった体制を構築しようとしているのかは不明ですが(Dior時代は2チーム制にしたりしてましたが。)、自身で全体の細部までコントロールするのは無理があるので、優秀な人材を配し、優秀なチームを構築してどこまで任せられる体制を組めるかに成功は懸かっているでしょうか。

ブランド全体のコントロールと言えば、先日、Sterling Rubyとコラボしてマディソン・アヴェニューにあるCalvin Kleinのブティックをリニューアルするという噂がPage Sixで書かれていましたね。早速、ラフの趣味全開といった感じなのですが、ある関係者は噂を否定したようです。記事中にも書かれていますが、もし仮にそれが実現すれば今のブティックのイメージからは大きな変化となるので、(店舗のデザインにもよりますが)その突然の大きな変化を経営側がそのまま受け入れるとは個人的にもあまり思えないですね。最初から自身の趣味を前面に押し出すよりもJil SanderやChristian Diorでやったように、既存路線を踏襲しつつの変化の方が彼には合っているのではないかなと思います。

シグネチャーをニューヨークで披露するという今回の件がテンポラリーなものなのかどうか、そして、Calvin Kleinでの采配が気になるところですが、パリからニューヨークへ、というのは90年代後半のHelmut Langを意識しているのかなと思ったりもします。偶々、自分のやりたいことがCalvin Kleinでできそうだっただけなのかもしれませんが。個人的にはまだラフがニューヨークというのはとても違和感がありますが、NYFWにとっては力のあるデザイナーが参加することはプラスに働くでしょう。
それが彼のクリエイションにどういった変化を齎すのか。期待と不安が入り混じった状態ですが、その日を楽しみに待ちたいですね。

Dior Ginza move into G6 Project

10月も下旬ということでやっと秋冬の季節になってきた感がしますが、来月にはスプリングコレクションのデリバリーが始まりますね。早いものです。

それで、銀座の松坂屋跡地を含むエリアの再開発事業であるG6プロジェクト。先月、日経でも報じられていましたが、2017年4月に開業予定で、LVMHのグループ企業であるL Real Estateが参画していることからLVMH傘下の複数のブランドが入居する予定になっています。

その中でもDiorは現在の銀座ブティックが移転し、1フロアでウィメンズとメンズを並列で展開する予定になっており、実現すれば世界初で、売り場面積も最大規模になるようですね。銀座ブティックが移転するというのも驚きなのですが(現在のビルは賃貸なのですね。)、ウィメンズとメンズが同フロア展開というのも面白い試みで、ブランドとしてより一体感を出していく感じなのでしょうか。

ちなみに、同施設にはCelineやFENDIも入居する予定になっています。現在、Apple Store Ginzaの隣にオープンしているFENDIはポップアップストアなので今年の12月末でクローズしますが、それが移転するイメージなのでしょうかね。
また、LVMH系ブランド以外にもSaint LaurentやValentino、Versace等が入居する予定とのことなので、施設全体としてどんな感じになるのかも気になります。

オープン時には限定アイテム等も販売されると思われるので、来年春には是非足を運びたいスポットになりそうですね。

Louis Vuitton 17SS Collection

来年、ヴァンドーム広場にオープン予定の工事中のフラッグシップショップで行われた、Nicolas GhesquiereによるLouis Vuitton 2017年春夏コレクション。

今年5月にリオで披露されたリゾートコレクションからの継続となるファブリックの一部をカットアウトするというアイデア。ファブリックの間から露出した肌、ジャージードレスやスカートのドレープ及び、スリットとその流動性が涼しげな表情を魅せる。そして、Louis Vuittonには珍しくテーラリングにフォーカスを当ててデフィレは進行。膝丈のスカートとセットにされたロングジャケットのショルダーは、ケープのように曲線を描く。

カジュアルでありつつもシックさを保つゴールドジップのライダース・ジャケットや、ゴールド・メタルボタンのフラップ付きノースリーブ・ブルゾン。シンプルなTシャツには、ヴァンドーム広場のアーチに飾られている彫刻をイラストにしたものがプリントされている。
イヴニングでは、シースルーに多層化された光沢のあるドレスが登場。ドレスにもブーツを合わせていたのが印象的でしたね(今回のコレクションは、3Lookを除いて足元を飾ったのは全てブーツ。)。

ジェスキエールによると今回のコレクションのインスピレーション・ソースの1つとなったものは、1984年の映画「Rive Droite, Rive Gauche」とのこと。彼は、「それは会社と弁護士に関する素晴らしい映画です。」「女性はとても強く、とても洗練されています。私は本当にそれを探検したかったです。」と話しています。ちなみに、映画のサウンドトラックはランウェイショーのBGMにも使われたようですね。

全体的に複雑性はかなり抑えられており、彼のコレクションにしてはシンプルだったと思います。もっと遊んでも良かったのではないかなと。ビジネスサイドからの要請でこうなったのかもしれませんけれども。
テーラリングで遊ぶというアイデアは個人的に面白かったですね。彼のテーラリングをもっと多く見たかったなと思った次第です。

最後に、各所で話題になっていたPetite MalleのiPhoneケースですが、可愛らしく、ラグジュアリー感もあって人気の出そうなアイテムでしたね。オーナメントがイヤホンになっていたのも芸が細かいです。iPhoneケースはiPhoneの新型が出ると使えなくなってしまうのが痛いところですが、それでも欲しい人は手に入れてしまいたくなるアイテムだったのではないでしょうか。

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Chanel 17SS Collection

Grand Palaisにデータ・センター・シャネルをセットして行われたKarl LagerfeldによるChanel 2017年春夏コレクション。
カールは今回のショーを"Intimate Technology."と呼んだようです。

モノトーンのツイード・ジャケットを着た2台のロボットからショーはスタート。インスピレーション・ソースとなったサイバー・テクノロジーのイメージにランジェリーをミックスし、透け感のあるレースのアンダーウェアの上にシャツやジャケット、そして、スカートをOSI参照モデルのように多層的にレイヤリングしてLookを構成する。カラーパレットは、ランジェリーの薄いベージュやピンクに加え、ネットワーク・ケーブルやネオンのカラフルさ、グリッチやピクセル・アートのデジタルグラフィックをツイードやガロン等で巧みに表現する。

ショルダーに力点を置いたワイドシルエット。雲(クラウド)のようなフリル。ストリート感を与えるスポーツ・キャップ。ボタンの代わりに用いられたカジュアルな印象のダブル・ジッパーや、ブロックノイズのように走るベルクロ。

多色使いのコレクションは全体的に若さを感じますね。春夏らしいと言えば、春夏らしいですけれども。カールはちょくちょくこういった配色のコレクションをしますが、だいたい同じようなところに着地をするかなと思います。そして、カラフルだったとしてもツイードはやはり重さを感じさせますね。Lookによってはカラーと相俟ってクドく感じるものもあったので、爽やかに見せるもう一工夫が欲しかったかなと。「見せランジェリーのレイヤリング」というアイデアは、Chanelとしては面白かったですね。

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Olivier Theyskens 17SS Collection

Olivier Theyskensがシグネチャー・ブランドで復帰を果たした2017年春夏コレクション。
今回のコレクションについて彼は、「それは私が信じるものの基本です。それが自然に私の精神から出てくるとき、私はそれを疑いません。」と話していますね。パリにおいて自身の名を冠したブランドからキャリアをスタートし、Rochas、Nina Ricciを経て、ニューヨークのTheoryを経験。そして、再度、シグネチャー・ブランドでパリへと帰還して披露された今回のコレクションは、自分自身の中にあるものを信じてクリエイトされたものだったようです。

鉤ホックを用いたレザーのLBDから開始されたランウェイショー。フレアを描くテーラリングやレースシャツの袖、そして、スカートの裾がフェミニティを誘い、フィンガーレス・レースグローブがエレガンスを感じさせる。ミニマルなLookたちはイノセンスでフレッシュな若さと共に、パイソンレザー等によって仄かにダークな香りを漂わせる。フラジャイルでロマンチックな部分とハードな部分。リアリティと夢幻性の並置。パリとニューヨークを経た、紆余曲折のキャリアを携えて制作された25のLook。

それぞれの服には彼らしい優しさと、穏やかな美しさがありますね。今の彼が描く等身大の美しさとでも言いましょうか。奇を衒うでもなく、流行に乗るでもなく、自身の道を誠実に静かに歩む。彼はインタビューにおいても、「(前略)トレンドを作ろうとしたくありません。私は大きなことをしようとしていません。単に、彼女が素敵に見える女性のためにドレスをつくるというアイデアが好きです。それがモダンかどうか、または、時代遅れかどうかは気にしません。」と話しています。

CEOのMaximiliano Nicolelliによれば、今回のコレクションは80のプロダクト(またはSKU)から構成されるとのこと。バイヤーの反応はとてもポジティブで、既に約50社と契約が取れており、それは日本と米国、ヨーロッパの各国及び、ECサイトを含むとのこと。日本では、伊勢丹辺りが取り扱ったりするのでしょうか。Nicolelliは、将来的にはバッグ、または、よりプロダクトレンジを広げていくかもしれないとも話しています。

最初の一歩としてはコンパクトにまとめたコレクションで、流石にとても安定していましたね。カッティングもスタイリングも迷いが感じられません。テーラリング、トレンチコート、スカートなど、普通に使えるアイテムも多かった印象で、ビジネス的なバランスは取れていたと思います。今後の彼の美学の発展に期待ですね。

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Christian Dior 17SS Collection

Christian DiorでのMaria Grazia Chiuriのデビューコレクションとなった2017年春夏コレクション。
創業70年の歴史あるファッション・ハウスにおいて初の女性デザイナーとなった彼女が選んだテーマは、フェミニズム。

テーマに沿うように、男性選手と女性選手が着用するユニフォームがほぼ同一であるということから今回のコレクションの主要なインスピレーションソースとなったフェンシング(ジャケット)を中心にデフィレはスタート。メンズウェア要素として、Dior HommeからHedi Slimaneが遺したbee刺繍に、Kris Van Asscheがよく配するクラシカルなCD刺繍を施したシャツやスニーカー。そして、ショルダーバッグのベルトはDior Hommeのベルトがモーフィング。

スポーティなニッカーボッカーズに、切りっ放しのクロップド・ホワイトデニム。マスキュリンなバイカージャケットにはフェミニンなチュール・スカートを併せる。Beyonceの"Flawless"にも引用され、今回のショーのFront Rowにも招かれたChimamanda Ngozi Adichieの"WE SHOULD ALL BE FEMINISTS"や"DIO(R)EVOLUTION"がプリントされたスローガン・Tシャツ。ショーのイヴニングでは、Le Bateleur、La Lune、Le Penduといったムッシュ ディオールと馴染み深いタロット・モチーフの刺繍に、フルレングスのレースから透けたランジェリーには"CHRISTIAN DIOR J'ADIOR"といった言葉遊びがされる。

Sarah Mowerも書いていますが、デビューコレクションからかなり攻めてきたのは驚きましたね。もう少しロマンチックな感じで無難にまとめてくるかと思っていましたが。成否は別にして、フェンシング等から影響を受けたスポーティ・エレメントはChristian Diorとしては面白く、また、Dior Hommeからアイデアを引用するのは新しさがあったと思います。ただ、スローガン・Tシャツやブランド名を連呼する時代を感じさせる直接的なタイポグラフィ、ランウェイ後半のValentino時代から馴染み深いフルレングスのチュール・ドレスにあしらわれたブランドの遺産である昆虫や植物、タロットをモチーフとした刺繍(Alessandro MicheleによるGucciを想起させる。)は表現としてストレート過ぎますね。ストレートな表現は、露骨さや稚拙さを感じさせ、スマートさに欠けるでしょう。素材(アイデア)はよく火を通した上で調理し、クリエイションとして昇華させる必要があります。

John GallianoからRaf Simons、そして、各アーティスティック・ディレクター交代劇の間に担ったデザインチームのコレクションと比較すると作り込みも甘く、完成度も足りないと言わざるを得ないでしょうか。Diorに皆が期待する煌きもかなり減じているのは厳しいですね。キウリによれば、今回のコレクションは6週間という短い期間で制作されたものとのことなのでその辺も影響しているとは言え、それならば今回の春夏コレクションはスキップすべきだったと個人的には思います。コレクションはBernard Arnaultの事前チェックが入っていると思うのですが、よくアプルーバルを出したな、と思うLook/アイテムもありましたので。

新しいことに挑戦するという方向性はあっているので、あとはそれにクオリティが伴うかどうかという問題になりますね。今回の彼女のコレクションを見る限りでは今後の不安の方が大きいのですが…、さて、どうでしょうか。

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Saint Laurent 17SS Collection

Anthony Vaccarelloがクリエイティヴ・ディレクターに就任してから初のコレクションとなったSaint Laurent 2017年春夏コレクション。

1980年代の空気感をベースに(同ブランドの1982年のコレクションからの引用を含む。)、レザーを用いたスウィートハート・ネックライン、ロールアップされたミドルライズのカジュアルなデニム、シースルーのシャツにビスチェ、アシンメトリーのワンショルダーやワンアームのパーティードレス。シューズにはスティレット・ヒールやカサンドラをあしらったハイヒール。イヤーカフやブローチにもカサンドラを配す。

初見での印象は、(いくつかのサイトでも言及されていますが)Christophe DecarninによるBalmainっぽさを感じましたね。ベースにある80年代というのもそうですが、パフショルダーのメタリックなゴールドドレス等が分かり易い例でしょうか。ただし、デカルナンと比較すると各アイテムの作り込みが無さ過ぎて全体的に情報量も低く、かなりシンプルですけれども。カラーパレットもブラック一辺倒ということで、ランウェイも平坦な印象を受けましたね。ショーのパート毎に配色やグラフィックに変化を付けたり、差し色を巧く使うなどしてもう少し起伏が欲しかったかなと。

個人的には全てが予想の範囲内に収まるセーフティなコレクションだったので、もう少し可能性を感じさせるコレクションが見たかったですね。Vanessa Friedmanが言うように、歴史あるヘリテージ・ブランドに着任した新しいデザイナーのデビューコレクションは、ブランドの遺産を賛美することに集中するというステレオタイプな通過儀礼になりがちですが、Cathy Horynが指摘するようにSaint Laurentというブランドにおいてヴァカレロが何を表現したいのかが今回のデビューコレクションからは何も見えてこなかったと思います。
最終的な判断は数シーズンの経過が必要ですが、クリエイションの強度もストーリー性も現状では不足していますね。彼の過去のコレクションから鑑みるに漸進的な改善では足りなく、ある程度の大きな変化が必要かなと。

前任者のHedi Slimane、そして、今回のAnthony Vaccarelloですが、両者のコレクションと比較するとStefano Pilati時代の方がコレクションの完成度としては確実に高かったと言えるでしょう。クリエイションのクオリティは、デザイナー及び、そのチームメンバーの技術と知識量、ファッションに対する(偏)愛や情熱、そして、それらを支える経営側のサポートといったものに依存しますが、ピラーティと比較すると(エディは言わずもがな、)ヴァカレロは技術や知識といった基礎的な部分での不足を感じますね。技術や知識は対象への強いこだわりによって獲得されるものですが、そういったフェティッシュな部分は創り手としては必要かなと思います。

最後にもう一つだけ付け加えるとすれば、ピラーティは女性をエスコートすることができていた、ということですね。女性の内面性を理解した(しようとした)上で服を創り、女性に寄り添うことができるのならば、そこには自然とエレガンスが醸成されるものなのだと思いますが、エディよりは良いとは言え、そういった部分は依然として不足していると言えるでしょうか。

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