This is Not here - *//LIKE TEARS IN RAIN

Philophiles: Phoebe Philo's Celine Lovers

人生において三度目の妊娠を理由にCelineの2012-13年秋冬コレクションをプレゼンテーション方式で披露したPhoebe Philo。ボーイッシュでクリーンなミニマリズムの美学。それらによってドライブされる彼女のCelineを愛する女性たちのことを最近では、"Philophiles"と呼ぶ。

英国人夫婦の三人の子供のうちの一人としてパリで生まれた彼女は2歳になる前に英国へと戻り、ロンドン郊外のハローで育つ。不動産管理士をしていた父親はファッションに全く興味が無かったが、グラフィック・デザイナーで後年、アート・ディーラーをしていた母親はYves Saint Laurentへ彼女を連れて行ったりしていたという。
10歳の頃からスクール・レオタードをMadonnaのようにカスタマイズしてみたりしていたという彼女。数年後、両親は彼女にミシンを買い与え、そして彼女は自分自身の服をつくり始める。

高校卒業後、ロンドンのCentral Saint Martins Collegeへと進学。そこで彼女は、Helmut LangやJil Sanderといった90年代半ばのミニマリストたちに惹き付けられる。カレッジを卒業後、電気代が払えずに電気を止められてしまうような文無し生活をしながらロンドンでぶらぶらしていた彼女は、在学中から親しくしていたStella McCartneyのコレクションの手伝いなどをする。そして、1997年にStella McCartneyがKarl Lagerfeldの後任としてChloeのデザイナーに就任する際、ステラの誘いによって彼女はパリに引っ越し、Chloeでステラのアシスタントとして本格的にキャリアをスタートする。
2001年、Stella McCartneyがChloeから離れてGucciグループと共に自分自身のブランドを始める時、彼女はステラの後を追うのではなく、Chloeのクリエイティブ・ディレクターとして残ることを選択。当時、彼女のこの「裏切り」にステラが激怒したという噂が流れる。

ロンドンでアート・ディーラーをしていたMax Wigramと結婚した彼女は、最初の子供である娘のMayaを2004年12月に出産。翌年の3月に職場復帰をするも、平日はパリで働き、週末はロンドンで過ごすというユーロスターでパリとロンドン間を往復するハードな生活が続く。もちろん、そんな生活が長く続くはずも無く、彼女の交渉によってChloeのデザイン・スタジオをロンドンに開きもするが2006年1月に家族と過ごす時間を優先し、Chloeを去ることになる。

二人目の子供である息子のMarlowを出産し、二年と数ヶ月のサバティカルの後、LVMHからのオファーを受けて2008年9月にCelineのクリエイティブ・ディレクターの契約にサイン。2009年10月に行われた2010年春夏コレクションのランウェイショーで完全復帰を果たす。コレクションで描かれる女性像は彼女自身の成長と歩調を合わせるように、Chloe時代よりももう少し大人になった女性を描く。

Celineのクリエイティブ・ディレクションの全権限と自身の生活の自由をLVMHとの契約によって手に入れた彼女はパリにあるCelineの伝統的なデザイン・スタジオではなく、家族の住むロンドンのキャベンディッシュ・スクエアにあるジョージアン・タウンハウスでコレクションをデザインしている。パリには月に2、3日行く程度でその際はRitzにキャンプを張るという。ちなみに彼女のクリエイティブチームはYves Saint LaurentやBalenciagaといったブランドから引き抜いたスタッフとChloe時代に彼女の下で働いていたスタッフによって構成されている。

それまでブランドとしてのアイデンティティを確立できないでいたCelineは、彼女のクリエイティブ・ディレクションによって大きく変化を遂げていく。Celineの新しいブランド・アイデンティティにブティックのショッパー、ショーのインヴィテーションなどのデザインは、ニューヨークをベースに活動している英国人デザイナーのPeter Milesによるもの。彼はフォトグラファーのJuergen Tellerと20年ほど一緒に働いた経歴を持つデザイナーで、Marc JacobsのADキャンペーンやSofia Coppolaの過去3作品(Lost in Translation, Marie Antoinette, Somewhere)のタイトルシーケンスからポスターまでのデザインをも手掛けており、また、雑誌のthe journalのデザインにも関与している。彼のデザインの特徴はそのシンプルなタイポグラフィが示すように「ミニマル」である。
Peter MilesによればPhoebe Philoほど物事を細かく見る人とは今まで一緒に働いたことがなかったとのこと。彼女は顕微鏡で物事を見るようで、ロゴの位置などをミリ単位で調整する依頼を彼に何度もしてきたという。

Phoebe PhiloのデザインするCelineはシーズン毎に服を着捨てていくというトレンドにフォーカスするよりも、ワードローブをつくり上げていくという連続性のあるコレクションを毎シーズン展開する。ミニマリズムはその美しさを理解できない人たちによってしばしば退屈な服としてミスキャストされ、誤解されるが、シンプルであることと退屈であることには大きな違いがある。確かに博物館はRose BertinやChristian Lacroixの壮大なクチュール・クリエイションによって満たされるかもしれない。だが、現実の女性のワードローブはフィービーのつくる服によって満たされることができるというPhilophileの意見は正鵠を射ている。

女性がワーキングウーマンや母親として日常生活の中で着たいと思う服を感じ取ることができる彼女の不思議な能力と、それを具現化することができるデザイン能力。Celineのクリティカルで商業的な成功は服に対する顧客の感受性だけではなく、雑誌のエディトリアルにおいて他のブランドとのミックスを許さない"Full Look Policy"によるイメージコントロールや現代のブランドには珍しく、オンライン販売を行わないというマーケティング戦略も一役買っているが、Phoebe Philoというデザイナーのイメージそのものにも理由がある。

インタビューをあまり受けない神秘性とクリエイティブ・ディレクターという要職に在りつつも、家族を想うことを忘れない一人の女性としての彼女。彼女の出産休暇は、多くのCelineファンの女性の共感を呼ぶ。
以前、彼女が「赤ちゃんを産むことは、断じて"休暇"じゃないのよ。」と話していたが、これは「出産休暇」という言葉自体が家族よりも仕事が優先されるという前近代的な価値体系の中でつくられた言葉であることを表している。出産し、子供を育てるために仕事を休んだり辞めたりすることは女性にとって前に進むポジティブなことであり、決して人生における停滞期や単なる休暇ではない。

デザイナーとしてセンスやテクニックを磨き、多くの物事に見識を深める日々の研鑽は無自覚的な当たり前のことであるが、世界のトップレベルの領域ではそこから更に人間の根源的な能力が問われる。それまで送ってきた人生のライフ・エクスペリエンスの中で培った人間としての総合力が、ある閾値の向こう側のフィールドでは求められる。家族をないがしろにするナンセンスな仕事中毒デザイナーではない、稀有なデザイナーである彼女が体現していることはそういうことである。

Phoebe Philoというデザイナーが多くのファンに与えているものはハイクオリティなファッションだけではなく、一個人の女性としての生き方でもある。そしてそれは、多くのファンが支持しているものであることは明白と言えるでしょう。

via nytimes.com vogue.com ft.com guardian.co.uk tFS

Karl Lagerfeld vs Newsweek... Carine Roitfeld's New Magazine... Pierre Berge and Hedi Slimane...

Karl Lagerfeld Calls Newsweek 'a Sh-tty Little Paper'
例のNewsweekに掲載されたRobin Givhanによる記事についてのKarl Lagerfeldの反撃。
パークハイアットで行われたKarl Lagerfeldの記者会見でインドネシアから来ていたジャーナリストからの質問ということですが、こういうところでも日本不在なのがなんとも・・。まぁ、日本人ジャーナリストに同じような質問をして欲しかったとも思いませんけれど。

Confirmed: Carine Roitfeld's New Magazine to Debut in September
Carine Roitfeldが現在取り組んでいる雑誌は年に2回の出版で9月にデビューするとのこと。雑誌よりも本に近いものになるとのことなので、少しリッチな感じになるのでしょうね。そして、Stephen Ganが一枚噛んでいるのは間違いなさそうです。

Pierre Berge Gives Hedi Slimane His Stamp of Approval for YSL
米国のDenver Art Museumで3月25日から始まるYves Saint Laurent retrospectiveについて話をしたPierre BergeがHedi Slimaneについても言及したようです。
Yves Saint Laurentのデザイナーを務めることは、「天才の仕事を再びクリエイトすることは非常に難しく、大きな問題です。それは、フォークナーを書き直そうとするようなものです。」とのこと。Hedi Slimaneについては、「Yves Saint Laurentの精神と遺産を保持することができる才能ある人物」とのことで、今回のエディのデザイナー就任はベルジェのお墨付きなのですね。以前から彼らは仲が良かったので予想通りではありますが。Hedi Slimaneのつくるドレスはあまり想像できませんが、スモーキングやサファリルックを自在に操ってコレクションを展開するのは容易に想像できますね。

Chanel and Japan

写真はChanel Newsから。"The Little Black Jacket"のエキシビジョン・オープニングの映像もアップされていますね。写真の展示に関しては、La Chanelphileがたくさん写真をアップしていたのでご参考まで。ちなみに現在発売している雑誌のSWITCHにも椎名林檎らの写真が載っていたので、気になる人は立ち読みしてみると良いかもしれません。

そして、今日は新宿御苑でショーも行われたようですね。今日のショーは業界関係者向けで、明日のショーは一般向けといった感じなのでしょうか。Karl Lagerfeldが来日しているということもあり、モデルもトップモデルをキャストしていたのが良い感じですね。

WWDで今回のChanelのイベントに関する記事が出ていますが、カールによると約10年前の日本人よりも今の日本人はケーキやスウィーツによってbiggerになったとのこと。"It's the kind of beauty you get from junk food,"というのもfashionista.comが書いているようにイマイチよく分からないカールらしいコメントですね(笑)。
砂糖や肉を摂らないカールにとって日本のキッチンはパーフェクトですが、ライスが嫌いとのこと。過去に病気からリカバーするために11日間のライスのみのダイエットをしたことがトラウマになっているようです。
そして、今回の来日においてショッピングをする時間は恐らく無いと言いつつも、新しいComme des Garcons Dover Street Marketはチェックしてみたいと話していますね。

Chanelのファッション・プレジデントであるBruno Pavlovskyによると2011年の日本でのビジネスは(震災などの影響もあってか)前年比減になったとのこと。今年の現在までの数ヶ月は順調に伸びているとのことですが、今夏のエネルギー供給問題に関して現在は注意を払っているようです。

今回のChanelのイベントですが、日本で行われているイベントなのに海外サイトを経由して入ってくる情報がほとんどなので、なんだか違う国で行われているイベントのような感じがありますね・・。FNOの時も感じましたが、こういうイベントを上手く報道して存在感を示していくのは戦略的に重要なのではないかなと思ったり。ファッションの世界において日本という国がマーケットとして以外のプレゼンスを持ちたいと思うのならば、ですけれどね。

Chanel's three events in Japan

ChanelのオフィシャルサイトにKarl LagerfeldとCarine Roitfeldによる"THE LITTLE BLACK JACKET"のメイキング映像がアップされましたね。今回の本のために100人以上のセレブリティを撮影したとのこと。来週から日本で写真展が始まりますが、Sarah Jessica Parker, Georgia May Jagger, Alice Dellalといった名前が挙げられていますね。ちなみに日本からは蒼井優、菊地凛子、水原希子、玉木宏、平井堅らが撮影に参加しているようです(こここここの辺を参考に)。

そして、日本で再演されるクチュールコレクションですが、これは東北支援・日仏文化交流事業「フランスからの贈りもの」の一環として行われるようで、23日に新宿御苑のフランス式整形庭園 特設会場にてイベントのトリとして開催されますね。

また、オープンが予定されている期間限定ブティックの話も気になるところ。場所はどこなのでしょうかね。

Alexander McQueen launch New Website

Alexander McQueenのオフィシャルサイトがリニューアルされていますね。
現時点でもいくつかアップされていますが、過去のショー映像もYouTubeに順次アップしていくようです。
オフィシャルサイトでブランドのヒストリーを辿れるようにするのは良いことですね。

Chanel 12-13AW Collection

Grand Palaisに巨大なクリスタルをセットして行われたKarl LagerfeldによるChanel 2012-13年秋冬コレクション。
スモーキークォーツにアメジストといった水晶や深成岩などの鉱物、そして、地層などをリファレンスにしながら今回のシャネル・オデッセイは地球の自然が膨大な年月を掛けて形成した世界を旅していく。

昨年の秋冬コレクションにもあったジャケットにスカートとパンツを合わせるアイデアからショーはスタート。フラップポケットの付いたツイード素材のクラシック・ジャケットに7分丈のスリムなパンツ、パープルやブルーにグリーンといった抽象的な淡い色のセーターやドレスにツイストストール、多角形のモチーフを備えるショルダーが大きく膨らんだコートにファー・ジャケット、トランスパレンシーなスカートとレギンスにはプリーツ・シフォンのチュニックプルオーバーを合わせて。
化学組成の複雑でランダムな模様やジオメトリックなパターンをファブリックの表情や皺、プリーツやカッティングなどによってLookに落とし込んでいましたね。ショーの終盤では複雑さを増し、メタリックな質感のストライピングやフェザーを用いていたのも目を惹いた要素。多くのLookでアウターが7分袖になっており、ロンググローブとのレイヤリングによって変化が付けられていたのも面白かったですね。スカートに組み合わせたパンツやレギンスのように、レイヤリングというアイデアには今回のコレクションの中でフォーカスが当たっていたような感じがします。

ブーティーとメリー・ジェーンを組み合わせたシューズは透明なクリスタルヒールを持ち、アクセサリーに関してはアーマーのようなトルクネックレスが存在感があったかなと思います。ブランドマークのカメリアは、今回はカラフルに彩られていましたね。

モデルのインパクトのあるアイブロウは、カールのスケッチを元にPeter PhilipsとMaison Lesageのコラボレーションによって実現されたもので、オーガンザをベースにスパンコールを刺繍し、そこに鉱物の細片を縫い込んだものとのこと。メイクに関しては、頬を彫刻するためにシェードが入っていたのが気になる要素でしたね。

デニムなどの使用もありましたが、全体としてみればカジュアル・シックなコレクションだった感じでしょうか。オールドでレトロな要素が多かったので、もう少しコントラストの強いシャープな方向性でも良かったかなと個人的には思うところです。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com fashionwiredaily.com showstudio.com tFS

Yves Saint Laurent 12-13AW Collection

Yves Saint Laurentでのスワンソング・コレクションとなったStefano Pilatiによる2012-13年秋冬コレクション。

モノトーンにワインレッドやビリジアンといった豊かで深みのある色味を加えた色彩設計。ショルダーにアクセントをおいたテーラリング・コンストラクションにブランドの美学としてのウエストベルト、精神性の強さを歌うチェーンメイルドレスにRobert Mapplethorpeを示唆するカラーリリーのフローラル・グラフィック、艶かしいレザーはアグレッシブなフェミニティを表現し、ジャンプスーツはドレスと共にダンスを踊る。ドレスはバックショットまでもが美しいですね。
モデルのリップにはブラッディなルージュを引き、それとは対照的に植物の葉をモチーフにしたシルバー・ジュエリーが強さの中にも女性らしさの光を射す。

どこまでもイヴの遺した経典に忠実な女性像は強度の高いシックさとスマートな上品さを持ち、すれ違った時に初めて気付くような北アフリカをルーツにした異国情緒の香りが微かに漂う。ヒストリカルでレジェンダリーな物語は、こうして今も現代の女性をエレガントに描くために紡がれ続けていく。

ピラーティが話すように、今回のコレクションは最後を彩るセレブレーションでも7年間の集大成的なコレクションでもなく、クリエイションの一つの通過点としてのコレクションでしたね。ビジネス的に言えば、Yves Saint Laurentをバッグと靴によって黒字化させることに成功したこのタイミングでのデザイナーの交代劇は何を意味するのか気になるところではあります。

ウィメンズの経験が無いHedi Slimaneに賭ける理由がイマイチ明確ではありませんが、エディとしてはシグネチャ・ブランドを立ち上げるよりもラグジュアリー・コングロマリットの巨大なシステムに再度取り込まれる方を選んだのはビジネスリスクが少ないからというのもあるのかなと思います。Tom FordがAndy Warholの絵を売ってファッションに投資したように、すべて自前で揃えるには多大な投資が必要ですし、彼にはDomenico De Soleのようなビジネスパートナーもいないので。もちろん、ムッシュ・サンローランへの敬慕の念があっただろうことは言うまでもありませんが。
また、LVMHではなく、PPRというのはBernard Arnaultへの当て付け?という見方も面白いですね。少し考え過ぎのような気もしますけれど・・笑。

話をピラーティに戻しますが、彼がフィナーレで受けたスタンディング・オベーションは正当なものだったかなと思います。新しいストーリーを創造するという部分がもっとあっても良かったかなと感じますが、高水準のアベレージを維持する安定した実力は彼の特筆すべき能力ですね。"I love fashion, I probably will love it forever,"ということなので今後もきっとどこかで彼の服を見ることができるかなと思いますが、動向は気になるところです。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com fashionwiredaily.com showstudio.com tFS

Givenchy 12-13AW Collection

Riccardo TisciによるGivenchy 2012-13年秋冬コレクション。
インスピレーションソースは乗馬と70年代のパリ、そして、Guy Bourdinの薄気味悪さのあるセクシャルなフォトグラフィーから。

ダークカラーのカラーパレットにシルクやレザーの質感を合わせ、乗馬の影響を受けるテーラリングを中心にショーは進行する。スタンドカラーのジャケットやコートにプリーツスカート、乗馬スタイルからの引用となるジョッパーズやブーツ、Guy Bourdinの作品に感化されたというフェミニンサイドはレースとラインストーンで装飾されたシャルムーズによるネグリジェドレスによって表現。
リカルドのトレードマークとなるスターモチーフにモデルの耳元を飾る大きいゴールドのイヤリング、バッグの留め具には角が使われていたのも彼らしい感じでしたね。

今回のコレクションは全部で50近いLookが登場していましたが、tFSでも指摘されていたようにアイデアに対してLook数が少し多い感じが確かにあったかなと思います。アイデア違いではなく、バリエーション違いで47のLookは見る方も単調さを感じてしまうので、どこかで違うアイデアを投入してパート分けするか、Look数を抑えた方が全体としては間延びしなかったかなと思いますがどうでしょうか。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com fashionwiredaily.com showstudio.com dazeddigital.com tFS

Comme des Garcons 12-13AW Collection

川久保玲によるComme des Garcons 2012-13年秋冬コレクション。
音の無い静寂の世界で行われたランウェイショーは、真空パックのようにフラット化し、エンボス加工されたモデルが描くAラインシルエットによって展開。彼女の言葉少ない説明によれば、今回のコレクションは"The future's in two dimensions"とのこと。
今回のディメンションに関するコレクションを見ていてぼんやりと考えたことは個人的にいくつかありますが、一つは何故かプロダクトデザインについてでしたね。

プロダクトデザインの世界においてプロダクトはその技術革新によって小型化とフラット化が同時に進行していく。デザインとはプロダクトの機能を人間の身体性に沿い近づけ、人間の五感の延長線上にその機能を接ぎ木させることで人間自体の機能拡張を目指すことがその目的の一つにある。人間の肉体が精神の入れ物であるようにハードウェアとは言わば機能の入れ物であってその本質はその外殻ではなく、その中身に存在する。つまり、良くデザインされたプロダクトとは人の目には見えず(意識されず)、その機能だけを人が自然に享受することができるものになる。それをファッションの世界に適用するとするならば、限りなく服が身体性と人間の五感に近づいていくことになり、服は服の存在自体を否定し、究極的には形を持たない「服ではない何か」になると言えるだろうか。
いつしか精神が肉体を離れるように、情報がデジタル化されることで物質上から開放されて世界に遍在できるように、服も服ではない何かになることによって初めて本来意味するものになれるのかもしれない。

一方、プロダクトやファッションが紙のように限りなくフラット化していくことは、それは全体としてデザインがグラフィックデザイン化していくということも表している。今回の川久保のコレクションは、色(柄)と形にフォーカスを当てたディメンションの揺らぎに関するものでしたが、文字通りのグラフィック化とは別に、グラフィックデザイン的な感受性が僅かながらあったような気がしますね。

また、今回のデザインに関して言えばフォルムが単純で空間がたくさんある場合、普通のつくり手はその空間に不安を感じて無駄に情報量を上げて誤魔化すものですが、そうしないのがまた彼女の面白いところだなと思います。未完成感や子供のラクガキのような穢れのないピュアなグラフィックを上手くコントロールできているのは流石といったところ。
多くのファッション・インサイダーがComme des Garconsのショーに招待されてその神託を得たいと思う気持ちがよくわかる、今回もそんなインスピレーショナルなコレクションだったかなと思います。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com fashionwiredaily.com showstudio.com tFS

Lanvin 12-13AW Collection

Alber Elbazのデザイナー就任10周年を祝うアニバーサリーコレクションとして行われたLanvin 2012-13年秋冬コレクション。

ターコイズ、イエロー、レッド、ブルーといったプライマリーカラーによるフラワー・フレアが美しいペプラムドレスからこの祝賀はスタートする。ジャージー素材にファーにレザー、ワイドラペルコートからスーツまで。彫刻のようなウエストシェイプにプリーツギャザー、バイアスカットがファブリックに様々な表情を作る。

ショーの前半から中盤に掛けてのシンプルな構成とは裏腹に中盤から後半に掛けてコレクションはオーバードライブを見せ始め、パーティーはそのまま加速していく。
タイガーヘッドに大振りなジュエリー、マルチカラーのファーにレースやペイズリー、そして、ロングレザーグローブにクラッチバッグ。華美なプリントを備えたデコラティブなドレスは品位を犠牲にしつつも、思わず笑みがこぼれてしまうようなポジティブなエネルギーに満ち溢れ、今回のデフィレがセレブレーションであることを適切に表現していましたね。

ショーは、Joey AriasとPaper MagazineのKim Hastreiterらと共にAlber Elbazが"Que Sera Sera"を歌うパフォーマンスでフィナーレを迎えていましたが、エルバスによれば今回のコレクションは"It's been a special 10 years. But tonight is about the past and also the future. Looking at romance in a new way,"とのこと。
Yves Saint Laurentで辛酸を舐めた後、この10年間で彼はLanvinのエスプリの効いた女性像を定めることに完全に成功しましたね。"Que Sera Sera"は彼の人生に準えての選曲といったところでしょうか。未来のことは確かに誰にもわかりませんが、背中にファスナーの付いた曲線美のドレスがこの先も美しくあることは何となく分かる気がするコレクションだったかなと思います。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk fashionwiredaily.com dazeddigital.com showstudio.com tFS

Yohji Yamamoto 12-13AW Collection

山本耀司によるYohji Yamamoto 2012-13年秋冬コレクション。
黒をベースに、誘惑的でパトスを持った紅、泰然として神秘性を伴う藍、そして、母性のような静粛性を内在する白といったカラーパレットによってショーは展開。

ボディラインを辿るシンプルなジャージドレスにコケティッシュなレースアップドレス、解体と再構築によって生まれるアシンメトリーでアモルファスなコートやセーターに絡み付くストール、細かいプリーツによるアコーディオン・スカートに足元にはコンバットブーツやシンプルなレースアップシューズを合わせる。
ショーの終盤では肩を滑り落ちるアウターにシルクサテンのテディーによるLookが登場していましたが、モデルが服を押さえ持つフェティッシュな仕草とあわせて今回のコレクション全体には色気が漂っていましたね。

色の持つ本来的な美しさ、体と衣服のファブリック・コミュニケーションに少しだけファム・ファタールな色気を加えて。
いつものようにYohji Yamamotoらしいコレクションと言えるコレクションだったかなと思います。

via style.com wwd.com vogue.co.uk nytimes.com showstudio.com tFS

Christian Dior 12-13AW Collection

"Soft modernity"をテーマとして行われたBill GayttenによるChristian Dior 2012-13年秋冬コレクション。

淡い灰色と薄いピンクのカラーパレットを中心に、柔らかいプリーツスカートやシルクのドレーピング、シフォンの揺らぎなどの優しく甘い表情を各Lookに用いてクラシカルでスウィートな女性像をランウェイに描く。ベルトで固く留めたウエストに焦点を当て、ペプラムジャケットのニュー・ルックを基本に膝下丈のスカートやクラシックな千鳥格子パターン、羽のように軽いガウン、バレリーナの影響を受けるドレスとプラットフォームシューズなどによってショーは進行。
装飾過多でもセクシャリティ過剰でも、いたいけな少女の危険な火遊びでもなく、Christian Diorの壮麗な伝統に忠実なままに高品質な素材を用いて上品で端正な深窓の令嬢を穏やかに表現する。ブランドの歴史の重みを軽さに変え、着る女性に負担を掛けるのではなく、優しく包み込む。

Orlando Pitaによって表現されたヘアスタイルは、シンプルでストレートなポニーテール。Pat McGrathによるメイクアップはリュクスでありながらも僅かにミニマリスト・フィーリングがあり、唇はルージュを使わずヌードのままにされている。

個人的に今回のショーでとても気になったのは、Lindstrom & Prins Thomasの"Mighty Girl"などを使ったサウンドトラック。クオリティは素晴らしいの一言でしたね。

オフィシャルなデザイナーが不在のまま1年が経過。後任デザイナーについて尋ねられたBernard Arnaultは微笑みながら天を指差し、神だけがそれを言うことができることを示したとのこと。FWDではLVMHの匿名のエグゼクティブの話として、Raf Simonsが指名されることは起こりそうに無いと報じていますね。
売上は伸びているということなのでこのままBill Gayttenがもう少し続けるのか、それともデザイナーを指名してブランドとして前に進んでいくのか気になるところです。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com dazeddigital.com showstudio.com tFS

Rick Owens 12-13AW Collection

ブルータリズムについての考えがあったというRick Owens 2012-13年秋冬コレクション。

ランウェイのバックに炎をセットして行われたランウェイショーは、クイーンのような雰囲気のフロア丈のコートにバイアスカットのスカート、プレーンなドレスにケープのようなシャーリングカラーを備えたクロップド・レザージャケット、曲線を描くショルダーにパッチワークされるファー、ブランケットチェックやモノクローム・カラーブロッキングによるアウターウェアにすべてのLookで見ることができた特徴的なバラクラバ帽のようなメッシュ・マスクなどによって展開。
Marlene Dietrichの解釈としての柔らかさを主張するアプリコットやピンクなど、ブルータルな要素をエレガンティズムによって抑制するというアイデアが今回のコレクションの骨子にありましたね。

Rick Owensが見せる柔らかさやフェミニティへの頷きは、無骨な人が時折見せる優しさや笑顔に似ているかなと思います。少し不器用かもしれませんが、そこには純粋さがあるという。彼のそういうセンシティブな一面が厳かな強さを持った女性を描く瞬間が個人的にとても好きで、彼の作品に惹き付けられる理由はそういうところにあるのかなと思いますね。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com dazeddigital.com showstudio.com tFS

Ann Demeulemeester 12-13AW Collection

今回のコレクションのスターティング・ポイントはコンストラクションにシェイプ、アーキテクチャーだったというAnn Demeulemeester 2012-13年秋冬コレクション。新しい型のテーラードスーツをカットしたかったというアンの言葉にあるように、マニッシュなテーラリングにフォーカスしてショーは進行する。

ジャケットのカッティングにおけるカーブや直線、開きに集中するために色やプリントなどの装飾性を完全に排除。ブラックと"the color of night"とアンが呼んだミッドナイト・ブルーのカラーパレットを用い、スカーフのようにラペルと襟が一体化したアシンメトリーなファンネルネック・ジャケットの複雑な鋭さとレザーパンツによって冷たくクールな女性像をランウェイに描く。羽の髪飾りと刃のように尖ったヘアスタイル、ロングレザーグローブにニーハイブーツはディティールを明確にし、シンプルでエレガントなドレスはコレクションに緩急をつけつつ、影のある女性像のフェミニンサイドを適切に表現する。

ロマンチックで詩的な響きよりもハードな方向性に振ったコレクションはいつも通りのコレクションと言えるほど新しさはありませんでしたが、そのすべてはAnn Demeulemeesterの世界観をパーフェクトに構築していましたね。いつまでも変わらぬ強さと崇高さを兼ね備えたアンの美学は、夜空で人知れず静かに輝く星のようだなと思います。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com dazeddigital.com showstudio.com tFS

Balenciaga 12-13AW Collection

架空の会社"Balenciaga Inc."のオフィスをイメージし、ビジネス・ドレッシングで遊ぶことをテーマとして展開されたNicolas GhesquiereによるBalenciaga 2012-13年秋冬コレクション。

80年代の影響をフューチャリズムに転化して描かれるクラブ帰りのオフィス・ガール。オーバーサイズシルエットにアニマルプリントの特定のリズムをクリエイションの起点とし、マテリアルやカラーの切り替えしにコラージュを多用して、それらをパリジャンシックの空気感と結合する。
肩が落ちるサイズ感のコートやスウェットシャツにニットウェア、キッチュなムービーポスターやアーケード・グラフィックスのプリントにレトロなリブギャザー、ショルダーパッドによって強調される構築的なクロップドジャケットにハイウエストなシルク・ジャンプスーツ、靴はエルフシューズのようなブーティにシューレース・ヒール。

ブランドの遺産としてのソリッド・ジオメトリーなシルエット。Cristobal Balenciagaがファッションを宗教的次元まで高めたその立体性に実験的なファブリック・ミクスチャーを用いてNicolas Ghesquiereは意図的に混乱や曖昧さを持ち込む。過去と現在が出会う場所がここにはありますね。

tFSではBouchra Jarrar, Sebastien Peigne, Alistair Carrといった優秀なアシスタントが抜けた影響を指摘するコメントがあったり、Cathy HorynがBalenciagaにしては月並みだったと評していましたがどうでしたでしょうか。安易な分かり易い美しさではなく、安全地帯ではない場所でリスクをとる姿勢が個人的には好きなのですけれどね。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com tFS

Gareth Pugh 12-13AW Collection

ランウェイに黒いコンフェッティが舞う演出によって行われたGareth Pugh 2012-13年秋冬コレクション。
ショーのサウンドトラックはMatthew Stone、スタイリングはKatie Shillingford、メイクアップはAlex Boxによるもの。

Gareth Pughのアイデンティティであるサイバー・ゴシックな空気感にトライアングル・カッティングを多用した鋭利なフォルム、スクウェアなシルエットとジッパーによるレザーアウターウェアにいつもの鶏冠のようなヘッドドレス、フリンジドレスにファーはイエティのようなワイルドなシャギーから滑らかなものまで。
足をファブリックで包むようにして縛って履かれた靴も目を惹きましたね。ドレープは適切にフェミニティとして機能していたかなと思います。

今回のフリンジやファーなどの使用を見ているとサポートを受け、そして、師匠筋にあたるRick Owensと似ている感じが多くしました。リックほどの無骨さはありませんが、ソフトな雰囲気の中にも種族的な感覚の要素が増えるとそう見えるのかなと思います。Gareth PughというブランドがRick Owensの後に続く必要性は無いと思ったりするのですが、彼らの関係性上そうなるのは仕方が無いとも言えるでしょうか。

via style.com wwd.com vogue.co.uk nytimes.com dazeddigital.com showstudio.com tFS

Nicolas Andreas Taralis 12-13AW Collection

"Kurosawa meets Blade Runner"という説明があったように日本をフィーチャーしての展開となったNicolas Andreas Taralisによる2012-13年秋冬コレクション。

空手や柔道の影響を受けてキルティングを用いたアシンメトリーのテーラリングを中心に、髷を結ったモデルの多くが手で掴んで運んだフロア丈のスカートやドレスなど。暗く荒れたゴシックな世界観にドレスのドレープが少しだけ色気を与える。

2010年以降のコレクションは基本的に同じトーンなのですが、それ以前にあったツヤやシャープな色気が個人的にはもっと見たいですね。リッチな表現ではなく、リーンな表現ということは理解できますが、それだけだとクリエイションの厚みが無くなってしまうだけですので。

via style.com wwd.com tFS

Dolce & Gabbana 12-13AW Collection

ランウェイには巨大な金メッキをしたバロックミラーにリアルフラワーで飾ったシャンデリアをセットし、"La donna e mobile"をサウンドトラックにして行われたDomenico DolceとStefano GabbanaによるDolce & Gabbana 2012-13年秋冬コレクション。

前半はメンズコレクションと同様に、モノクロームのカラーパレットにゴールドのバロックパターンを加えたケープやトランスパレンシーなレース・フロックを展開。中盤から後半に掛けてはカラフルなニードルポイントのフローラルを用いたロンパースにコルセット、スカートスーツにレースコートといったLookで変化を付けていましたね。

Guido PalauによるヘアスタイルとPat McGrathによるメイクアップは、聖母マリアのアイコングラフィーをインスパイアしたものとのこと。ヴァージン・マリー、オペラ、王女、そして、Dolce & Gabbanaのアイコン的な女性像となるシチリアのセクシーな未亡人。イタリアン・カルチャーの多層的な可能性を探るコレクションはいつものようにとても安定したコレクションですが、やはり新しい展望が何か欲しいかなと思います。過去の自分に頼るコレクションは長い目で見れば良い結果は齎さないのですから。

via style.com wwd.com vogue.com vogue.co.uk nytimes.com fashionwiredaily.com showstudio.com tFS