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Chanel 19-20AW Haute Couture Collection

2月に逝去したKarl Lagerfeldの後任として5月のクルーズコレクションに続き、今回がクチュールコレクションのデビューとなったVirginie ViardによるChanel 2019-20年秋冬オートクチュールコレクション。

Grand Palaisにセットされたプライベート・ライブラリーは、Coco Chanelが日中過ごしたと31 rue Cambonのアパート(夜はRitzで過ごした。)にコレクションされていた書籍とKarl Lagerfeldのお気に入りの書店だったパリのLibrairie Galignaniの書籍をミックスしたもので、StendhalやGustave Flaubert、Jean-Jacques Rousseauなどが並ぶ。カールのスタジオにも大量の書籍があったのが思い出されますね。

ボタンをアクセントにしたスリットの入ったロングコートに、ウエストラインがシャープな細身のクロップド・ジャケット。グリーンのツイード・オールインワンにはホワイトのウエストベルトを合わせ、スパンコール・ボレロジャケットはツイードに擬態される。ボタンと同様に上下組みのシンプルなLookの中にアクセントを与え、リズムとバランスを取るために用いられるカフスやジャケットのラペル、フラップポケットの切り替えし。パフやラウンドショルダーといった丸みを帯びたシルエットに、オフショルダーやストラップレスのドレスを加えて。

ブラックを中心にしたカラーパレットで展開されたデフィレ後半のイヴニングパートは、光沢のあるベルベットやシルクサテン、透け感のあるシフォンにドレスの柔らかいドレーピング、そして、そこに華を添えるフェザーが目を惹く。クローズはブライドではなく(よくカールがモデルと一緒にウォーキングしていたのが思い出される。)、ピンクのシルクローブ。

シューズはボウタイの付いた白黒ツートン・パンプスとブラックのフラットシューズ。
Sam McKnightによる後ろに垂らしたポニーテールのへアスタイル、野暮ったさを僅かに残した太めのアイブロウにメタルフレームの眼鏡は、図書館に通うような小説や詩を好む女性をイメージしたもの。

ステージセットに合わせた落ち着いたコレクションは、Suzy Menkesが書くようにカールに対して喪に服した印象を与えるでしょうか。クルーズもそうでしたが、新しい提案はほとんどなく、tFSでもコメントされているようにカールのコレクションに倣っている感があります。

Chanelのクチュールコレクションは、4つの専門のアトリエによって作成されている。2つはJosette PeltierとJacqueline Mercierが率いるジャケットなどのテーラリングを主とした"tailleur"、残り2つはOlivia DouchezとCecile Ouvrardが率いる柔らかいドレスなどを主とした"flou"と呼ばれている。

通常、新しいデザイナーが着任した際は、数シーズンの経過の中でアトリエや社内のメンバーとのコミュニケーションや、自身のクリエイションスタイルを擦り合わせていくことになるが、Virginie Viardはカールと長年(Chloe時代を含めると30年以上)仕事をしてきているので、こういったアトリエのメンバーとも(関係性が変わったとは言え)既にある程度は息が合っていると言えるでしょう。

問題はKarl Lagerfeldのスケッチを翻訳し、現実の世界に具現化する役割だった立ち位置から、自身がゼロから何かを生み出さねばならぬ役割に立ち位置が変わったことにある。神託を授かる側から授ける側に。

109年のブランドの歴史の中で初めて昨年から公表されている財務状況のレポートによれば、2018年のChanelの売上高は111億ドル(これはLouis Vuittonに迫るレベル。)で利益は約30億ドルに上り、世界中で25,000人以上の従業員を擁する。財務状況の公表は透明性の確保や時代の流れによるものと説明されており、ブランドの売却や株式上場の憶測は否定されている。

Karl LagerfeldがChanelのデザイナーに着任した時、"When I took on Chanel, it was a sleeping beauty. Not even a beautiful one. She snored,"と彼は説明している。Chanelのその眠った美しさに気付いたKarl Lagerfeldは生涯現役という自身の言葉を有言実行し、在任期間中の36年間、ブランドの推進力の源泉としてそのクリエイティヴィティを発揮した。

Virginie Viardがどこまで変化を起こせるのか、という部分に今のところ個人的に疑問があるが、時代の流れは思っているよりも早く、過去と同じことを繰り返しているだけでは早晩、Chanelはまた眠りにつくことになるでしょう。ChanelのオーナーであるAlain and Gerard Wertheimerも年齢的な問題があり、今後のChanelの行き先には不確定な部分があるのは確か。
創造的な自由という観点からAlain and Gerard WertheimerとKarl Lagerfeldの関係性は理想形に近かったと言える。もちろんそれは、Chanelが非上場で目の前の意味のない短期的な数字を追う必要がないことにあり、結果としてビジネス的な成功が後からついてきたことにある。

Hamish Bowlesが評するように、現在のChanelというブランドはCoco ChanelとKarl Lagerfeldの二重螺旋のDNAを持つ。その豊かなアーカイヴを用い、物怖じせずにビッグメゾンを率い、変化を恐れぬ勇気を持った現代に沿った新しいストーリーを描けるデザイナー。そんな芸当ができそうなデザイナーは個人的に数えるほどしか思い浮かばないが…。

コレクションを見ていて感じるのはKarl Lagerfeldを失ったことの喪失感とその寂寥感であって、いつまでも当たり前にそこにあると思っていたものが無くなってしまったんだなということですね。

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