ランウェイショー復帰後、3シーズン目を迎えたTom Ford 2014-15年秋冬コレクション。
Tom Fordによれば今回のコレクションは1960年代のSwinging Londonなどから影響を受けたとのことですが、結果的にはtFSでも指摘されているように90年代のGucciの空気感を漂わせたコレクションとして提示されましたね。
Tom Fordらしいベルベットにレオパードといったマテリアル、スリムなタイトスカートにはカウボーイ・ブーツを組み合わせて、サファリルックのようなレースアップ・ネックラインにミンクファー・コート、そして、ゴートスキン・ジャケットからクロコダイル・セットアップまで。各所で話題になっていたスパンコールを用いたフットボール・ドレス(数字の「61」はTom Fordの生年への言及でもある。)はJay-Zのノックオフをパロディ化したもの。ショーの最後を飾ったアシンメトリーなブラック・ドレスは、Georgia O'Keeffeの作品(フラワー・ペインティング)にインスパイアされたものとのこと。
Tom Fordのクリエイションに関する個人的な興味とは、ミニマリズム全盛のこの時代に彼が志向するようなマキシマリズムはリアリティ(説得力)を持って実現可能なのか?ということですね。ミニマリズムとインテリジェンスは表裏一体の関係にあり、ミニマリズムはインテリジェンスという概念を通じて美しさやエレガンスに到達することを可能にしていますが、マキシマリズムは分かり易さが先行しがちな概念なので上手くハンドリングしないとチープなコレクションになってしまうという問題点を抱えています。今回のコレクションにも登場していたレオパードやファーといった分かり易いマテリアルをストレートに用いたLookは、(そこにTom Fordらしさがあることは理解できますが)個人的には不要に思えてしまったLookです。
Kvadrat / Raf Simonsのコラボレーションにおいてラフが自問自答していたものは、「自分が次の10年間をこれらと一緒に住みたいと思うかどうか?」だったとのこと。ファッションの世界におけるファブリックについてラフは、「私たちがファッションのためにファブリックをデザインする場合、しばしばそれは2、3週間かそれよりも短い期間で行われます。それは常により速く、より速い必要があります。更に、これを言うことはあまり美しくありませんが、ファッションはある時期のある瞬間だけの間、機能する必要があります。」と話していますね。
Miley Cyrusをフィーチャーした14SS AD Campaignでは、Juergen Tellerではなく、David Simsをフォトグラファーに起用したことが話題となりましたが、これはJuergen TellerがMiley Cyrusを撮りたくなかったというのが理由になっています。マークによれば、ユルゲンと意見が合わなかったのは今回が初めてとのことで、昔の自分であれば意見のすれ違いを我慢したでしょう、とのこと。更に、「今回の決定を真面目な顔で(ビジネス的な)「戦略」である、とさえ言うことができません。我々は本当に直感的で衝動的です。」と話していますが、16年間の協力関係にあった中での今回の選択は(変化を厭わないという意味で)大きな決断であったと言えるでしょうか。
2000年に誕生したディフュージョン・ライン"Marc by Marc Jacobs"のクリエイティヴ・ディレクターに昨年5月に昇進したKatie Hillierと彼女がデザイン・ディレクターに起用したLuella Bartley。Katie Hillierは、マンハッタンにあるMarc Jacobsのオフィスで働くのではなく、Marc by Marc Jacobsのデザインスタジオをロンドンに遷すことを決定。この決定は二人が英国人であることが大きく起因している感じですね。そして、Luella Bartleyの夫はフォトグラファーのDavid Simsなのですが、14SS AD Campaignを彼が撮ることになったのものこの辺が絡んでいたりするのでしょうか。
マークによれば、ディフュージョン・ラインのブランド名が"Marc by Marc Jacobs"から他の名前に変わるとのこと。そして、将来的にメインラインのコレクションをニューヨークからパリに遷すといったことも選択肢として無くはないと話しており(どこまで本気かは不明ですが・・。)、IPOなども含めて今後の展開が気になる感じになっていますね。
i-D MagazineのDior Homme 2014年サマーコレクションに関するKris Van Asscheのインタビューが面白かったので少し書いておきます。
上に載せた画像はPhil Meechによるバックステージ・フォトグラフィーをNicolas Santosがコラージュしたもので、インタビューの中でどのようにして制作されたのかが語られています。左右の身頃で色が違うジャケットなどが今回のコレクションではキーアイテムとなっていますが、それを破った紙のように上手くコラージュで切り替えして表現している感じになっていますね。そしてそれは、鏡に映ったもう一人の自分(鏡像)を表現しているようでもあります。
クリスが16世紀の詩人であるThomas Campionから引用した"The sun must have his shade."という言葉は、左身頃がプラム(バーガンディー)で右身頃がブラックになっているセットアップ・スーツが端的に表しているように、スーツの左身頃に太陽の光が射すことで反対側の右身頃に影が落ちている、という暗喩になっています。
"Lots of choice within one idea,"とは、クリスがコレクションを要約した言葉ですが、「多様性」はこの後の2014年オータムコレクションや2014-15年ウィンターコレクションでもキーとなる概念ですね。
John Chamberlainの作品が(2014年サマーコレクションの)メタリック・パッチワークに影響を与えました。何があなたの作品に引き付けましたか?
ここ数年の間、私は現代アート・シーンを調査していました。そして、John Chamberlainの作品は境界を押し広げているのでとても面白いと感じました。あなたが彼の作品を飾れば、それは抽象表現と同時に三次元表現を与えてくれるでしょう。したがって、ボリュームとリフレクションの上に成立する彼の作品は非常に訴えかけるものがありました。
The CutやFashionistaで報じられていますが、Cathy HorynがNYTimesを去るようですね。理由は、彼女のパートナーであるArt Ortenbergの健康問題が挙げられています。とても驚きましたが、理由が理由なのでしょうがない感じでしょうか。彼女のアーティクルが読めなくなるのはとても残念ですね・・・。書くべき時に書くべきことを適切に書ける書き手はとても少ないのですから。プライベートが落ち着いたら、どこかで再開してくれると良いのですけれども。
尚、The New York Timesの1850年代から21世紀前半までのファッションに関する報道を年代順にまとめた書籍がRizzoliから出版される予定があるようで、それに彼女が関わっているようですね。