This is Not here - *//LIKE TEARS IN RAIN

Chanel 12SS Haute Couture Collection

Grand Palaisにプライベート・ジェットの客室をセットして行われたKarl LagerfeldによるChanel 12SS Haute Couture Collection。

美しいブルーに染まった王女を思わせるスクープネックラインとベルカフスが目を惹く構築的でタイトなドレス、膝上丈からアンクル丈までの多様なルック、ジーンズのポケットに手を入れる男子のようにスラッシュポケットに手を入れてのウォーキング、加茂克也によるジュエリーを散りばめたヘッドピースと耳元を飾るサファイアのイヤリング、ドレスを彩るビーズとスパンコールにハウスシグネチャのブルーのカメリア。
ラストルックに登場した翼を持ったドレスは今回の空をモチーフにしたランウェイによく合っていましたね。

Tim Blanksがレビューしているように、服の複雑さ(厳格さ)をドロップウエストやポケットに手を入れるというストリートの若者のだらしない仕草を用いてカジュアルダウンし、クチュールコレクションをあくまでもリアル側に振っているのがKarl Lagerfeldらしい感じ。逆立ったヘアスタイルもそれを意図しているようで、エレガントな中にも切れ味の鋭いエッジの効いた女性像がChanelらしく表現されていますね。
新しさに関して言えば目を見張る要素はありませんが、いつものように高い次元での安定したコレクションは流石といったところ。モデルのキャスティングに関しては、今回もTaoがキャストされていたのが気になりましたね。

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Christian Dior 12SS Haute Couture Collection

デザイナー代理を務めるBill Gayttenによる第二のクチュールコレクションとして提示されたChristian Dior 12SS Haute Couture Collection。Bill Gayttenから説明があったように今回のコレクションのテーマは、"an X-ray of Dior"。

レッドとヴァイオレットを加えたモノクローム・カラーパレットに、トランスパレンシーに薄い層を成すファブリックがアトリエの技巧を露出させる。クラシックで静かに美しさを放つ花の刺繍と千鳥格子、クロコダイルを用いて表現されるブランドの遺産としてのバージャケット、ムッシュ ディオールの"Elegance must be the right combination of distinction, naturalness, care and simplicity,"という格言が描かれた豊かなボリュームのスカート、アトリエのクラフトワークの賛歌としてのステッチ、柔らかなグラデーションを描くマルチレイヤーのクリノリン、ドレスの裾に煌きを与える眩いスパンコール、クチュールらしくスケール感のあるイヴニングドレス。

多くのFashion LoversがChristian Diorという名前を思い浮かべて思い描くChristian Dior像をそのまま体現するようなコレクションは、デザイナー不在の緊張感のあるこの状況下において適切に機能していますね。John Gallianoにあった過剰さが無くなり、クライアント・フレンドリーで丸くなったコレクションはとても分かり易い優雅さと安心感を与えてくれます。ただ、ブランドのアーカイヴを用いたマーケットイン的な手法はビジネス的に言えば短期的な戦略であって、長期的な視点で言えばやはりChristian Diorを再創造するような才能あるデザイナーが必要不可欠ですね。ハイファッションの世界はデザイナーを核にしたツリー上の組織構造がメインであることは(それが昔からある古い組織構造だったとしても)今後も変わらないでしょうし。

今回のコレクションをFWDのGodfrey Deenyがヘミングウェイの"grace under pressure"という言葉を引いてレビューしていたのが印象的だったのですが、この言葉は「プレッシャーのある状況下においても優雅に。」という意味。苦しい状況や困難な状況においても平静を保ち、優雅であること。それをヘミングウェイは「勇気」と呼んだようですが、Bill GayttenのChristian Diorが教えてくれることは確かにそういうことなのかもしれないですね。

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The Day Before Dior.
Scenes from the Christian Dior haute couture atelier.

via tmagazine.blogs.nytimes.com

Dior homme 12-13AW Collection

Kris Van AsscheによるDior homme 12-13AW Collection。
コレクションのタイトルである"A Soldier on My Own"が示すように、今回はミリタリー・トーンをメインにセットしてのコレクションとなりましたね。

カラーパレットにはオフィサー・グリーンと呼ばれるオリーブカーキをフィーチャー。4Bや3Bジャケットにボタンダウン・シャツとプリーツ・トラウザーを合わせたスーツ、軍の感受性としてのブルゾンやボーダーガード・パーカーにフィールド・ジャケット、過去シーズンと同様に流動性への頷きを見せるバックジップのロングオーバーコート。キルティング・ボマージャケットやシルクスリーブのトレンチコート、シアリングファーをあしらったジャケットはインサイドアウトという概念によってアトリエのクラフトワークを賛美する。
ランウェイ終盤のホワイト・バードによるカモフラージュは今回のコレクションを象徴するサインと言えますね。

服に関しては4Bジャケットやボタンダウンのシャツ、スタンドカラーやチンフラップの採用が目に付きましたが、バッグのクロコダイルやミリタリーキャップとアビエイターサングラスもコレクションの方向性と上手く合っていたかなと思います。

Kris Van Asscheが話しているようにソルジャー(ミリタリー)というテーマはある種のカモフラージュであって、今回のコレクションの本質的なテーマはテーラリングにスポーティなアティテュードを融和させることにありますね。数シーズン続いていたボリュームと流動性に関するテーラリングコレクションを通過した上でのスポーティフィケイション。スポーティなテーラリング以外の要素に関しては切れ味が鈍くなっているのは今までのコレクション通りですが、ミリタリーというテーマの上でさえもソフトでエレガント、分かり易く言えば可愛らしさが見え隠れしているのはクリスらしいかなと思います。

ミニマリズムにプラスして異なった要素をテーマに加えた今回のコレクションは言わば、企画モノと言えるでしょうか。テーラリングに関する最小化という意味でのミニマリズムはほぼやり尽くした感があるので、今後もこういった感じで連続的な変化ではなく、不連続な変化が続くのかなと思います。というか、通常のブランドのコレクションとはそういうものですけれど。変化や進化の見えない同じようなものばかり繰り返す退屈なコレクションよりは面白いと思うので個人的には良いと思いますけれどね。

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Comme des Garcons Homme Plus 12-13AW Collection

川久保玲によるComme des Garcons Homme Plus 12-13AW Collection。
テーマは、"Neither Man Nor Woman"。

ゴシックトーンの空気感にパンクロックなヘアスタイルやヴィクトリアン・インフルエンスといった(男性でも女性でもない)中性性と親和性の高い要素をミックスし、アンドロジニーでウェイフなLookで構成された今回のコレクション。
トラペーズコートに膝丈のプリーツのスカート、ヴィクトリアン・テーラリングにリボンとハット、ツイードやリネン素材にシグネチャのポルカドットやタータンといったパターン。ショーの後半ではダマスクローズ・プリントをスーツやコートにフィーチャーしていましたね。

セックスのボーダーを超えるという古くて新しい命題に対して今回のコレクションのようなアプローチを取るというのはComme des Garcons的に言えば以前からある方法論であって、個人的には新しい何かが欲しいといったところ。それは新しいアプローチであったり、新しい概念であったりする訳ですけれど、ね。

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Yves Saint Laurent 12-13AW Men's Collection

ランウェイのバックの黒板には走り書きされたAndy Warholのインタビュー、Frederic Sanchezによるサウンドトラックはウォーホールのインタビューを読み上げるSam Wagstaffの音声にMadonnaの"Justify My Love"をミックスしたもの。Robert Mapplethorpeを下敷きにした故サンローランの時代をインスピレーションソースにして行われたStefano PilatiによるYves Saint Laurent 12-13AW Men's Collection。テーマは、"Sex and Money"。

今回のコレクションはクラシカルなスーツスタイルにレザーを大胆に採用し、クラシックな優雅さとモードの切れ味の鋭さを高い次元で融合していますね。モノトーンのカラーパレットにレザーの光沢を加えて、ラペルや襟をレザーに切り替えたスーツにエレガントなミドル丈のファーコート、バイカージャケットのカスタムバリエーションとカミソリ・モチーフのニットセーター。

革の質感がセクシャリティと攻撃性を的確に表現しており、洗練の度合いもかなりのもの。YSLのメンズコレクションはクラシックな方向性でのコレクションが続いていましたが、今回はかなりやる気が感じられて個人的にはとても好きな感じでした。今後もYSLにはラディカルなコレクションを期待したいですね。

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Junya Watanabe MAN 12-13AW Collection

渡辺淳弥によるJunya Watanabe MAN 12-13AW Collection。今回のコレクションのテーマは、"Work"。
Tim Blanksのレビューによると、トラクターに列車、パワーショベルがインヴィテーションに描かれていたようですね。

アメリカン・ワークウェアをベースに、そこにテーラリングの概念を注入しての再構築。デニムにチェックシャツとサスペンダー、オーバーオールにワーキングブーツ、そして、ジャケットやコートなどに多用されるフラップポケット。Suzy Menkesが書いているように部分的に使用されるレザーからは男らしさの香りがしますね。

多くの国において労働問題が噴出するこの時代において農夫とエンジニアに関するコレクションはTim Blanksが言うように労働の尊厳に関する哀歌であり、それはあまりにも穏やかで牧歌的な空気を含んでいる。ファッションが描くオプティミズムとは、しばしば浮世離れした能天気なものになりがちであるが、オプティミズムとは未来志向の努力と意志が伴うことによって初めて意味を成す言葉であることには注意が必要ですね。

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Yohji Yamamoto 12-13AW Men's Collection

山本耀司によるYohji Yamamoto 12-13AW Men's Collection。
ビクトリアン・インフルエンスに粗いファブリック、ゴールドのブラスボタンによるダブルラペルのミリタリー・テーラリングにオーバーサイズのロングカーディガン、ハイクラウンハットに毛布を着るというアイデアのブランケットコートとケープ、多国籍で老若を問わないモデルたち。

"A nostalgia man,"という山本の簡潔な説明があったように、シンボリカルで豊かなシグネチャ・サインによる今回のコレクション。多様性と自由についての物語はノスタルジアではなく、いつの時代においても希求される概念と言えるかなと思います。

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Rick Owens 12-13AW Men's Collection

光の階段をランウェイにセットして行われたRick Owens 12-13AW Men's Collection。
リックの説明によると今回のコレクションの最初のアイデアは、Fred Astaireについての考えとのこと。

ファーストルックから登場したハイウエスト・トラウザーにRick Owensには珍しいダブルブレストのジャケットにコート。30年代の優雅さの彼なりの解釈とアイデンティティである強度を伴ったストリート感。モノクログレーのカラーパレットにライトブルーを加えて、漏斗のようなファンネルカラーのレザージャケットに特大のボリュームのオーバーサイズ・ストレンジ・ダウンジャケット。

ストイックでスパルタンな空気感はインスピレーションソースが何であったとしてもそのすべてを飲み込んでしまい、結果的に出力されるものはRick Owens以外のものにはならないですね。肉体の拡張機能(アドオン)として服が機能している感じが彼らしいコレクションだったかなと思います。

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Gucci 12-13AW Men's Collection

River Phoenixの代わりにLeonardo DiCaprioがArthur Rimbaudを演じたAgnieszka Hollandによる1995年の映画"Total Eclipse"、Luchino Viscontiの貴族的な映画と俳優のHelmut Berger、Charles Pierre Baudelaireによる"Les Fleurs du Mal"の退廃的な美しさ。これらをリファレンスとし、"Bohemian grunge"というキーワードによって表現されたFrida GianniniによるGucci 12-13AW Men's Collection。

ブラックを基調にネイビーブルーやワインレッドなどのシックなカラーパレットを用い、ランウェイにはニットとスカーフを合わせて胸元を開けたスリムなスーツ、アストラカンファーやカーディガンコートにボマージャケットといったアイテムが登場。靴に関しては乗馬ブーツが使われていたのが気になりましたね。
フラワープリントにベルベット、ジャカードやタペストリーのような織りを現代化させる方向でミックスしたかったというフリーダの説明があったようにスーツやコート、そして、トラベリングバッグにまで植物やペイズリーなどのパターンが多用されていたのが印象的。イヴニングはデイウェアを艶のあるベルベットやポニースキンに置き換えてパターンを表現していましたね。

コレクション全体は現代のアリストクラシーで緩やかな日常着として上手くまとまっていたかなと思います。デザインよりもスタイリングが先行するのは良くも悪くも彼女らしいですね。

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Prada 12-13AW Men's Collection

Jamie BellにEmile Hirsch、Gary OldmanにAdrien Brody、そして、過去にPradaのAD Campaignにも登場したことのあるWillem DafoeにTim Rothといった俳優をキャストして行われたMiuccia PradaによるPrada 12-13AW Men's Collection。
今回のコレクションのタイトルは、"Il Palazzo"とのことでミウッチャは、"It's about power. But it started with the idea of characters,"と話していたようですね。

黒と白の模様の入った真っ赤な絨毯をランウェイに、旧ソ連などの共産主義圏の影響を感じさせるハイボタンのダブルスリーピーススーツにアストラカンカラーを備えたロングコート。シャツにはタートルネックとカマーバンドを組み合わせ、コートの胸ポケットにはピストルや軍の記章にカーネーション。ミウッチャは"A parody of male power,"と説明していましたが、今回のコレクションは政治家や外交官、軍人といった「権力(power)」を服によって表現したもので、男の(愚かな)虚栄心へのアイロニーが見え隠れしていたかなと思います。Suzy Menkesはランウェイをボードゲームのチェスに例えていましたが、上手い例えですね。

Pradaのスポークスマンによると今回の俳優の起用には特別な意味はなかったとのことですが、Tim Blanksがシェイクスピアの"All the world's a stage, and all the men and women merely players."を引用していたのが面白いと思いました。何かを演じ、その意志を表現しようとする時、服の持つ力が助けとなることは言うまでも無いことですね。

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Burberry Prorsum 12-13AW Men's Collection

Christopher BaileyによるBurberry Prorsum 12-13AW Men's Collection。
コレクションのタイトルである"The Gentleman"が示すように今回のコレクションは英国紳士を描いたもの。久しぶりのテーラリング・コレクションとなりましたが、詩的な響きのあるものではなく、ここ数シーズンのオプティミスティックな流れを汲むものとして表現されていましたね。

スクリーンにデジタルの雨を降らせる演出でスタートしたランウェイショーは、ツィード・ウールのクラシックなスーツを中心に展開。イギリスの都市部と地方の両方のドレッシングを融合させたかったというChristopher Baileyの発言があったように、ダブルのコートにアーミーグリーンのフィッシングベスト、クロップドされたフライトジャケットにハンティングジャケットといったアイテムをミックスしていたのが印象的でしたね。ハンチングキャップや鴨のモチーフで装飾された傘をステッキのように持っていたのも雰囲気を上手く出していたかなと思います。地方の自然を表現するモチーフとしての動物は鴨の他にも、ニットやシャツにキツネやフクロウが描かれていましたね。

ブリティッシュスーツにアウトドアの自然の香りをミックスし、ジェントルマンを表現した今回のコレクション。シーズン毎に連続的な変化を加え、グラデーションのようにそのBurberry Prorsumの形態を変えていくChristopher Baileyの手腕は器用と言う他ないといったところでしょうか。

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Jil Sander 12-13AW Men's Collection

ブラックラバーのランウェイに落書きのされたドア、光の世界に背を向けて闇の世界を描いたRaf SimonsによるJil Sander 12-13AW Men's Collection。今回のコレクションのタイトルは、"a reflection on contemporary masculinity - an exploration of the subtle tension between control and release."。
Michel GaubertによるサウンドトラックはNine Inch Nailsの"Closer"などを使用していたようで、今回のコレクションの世界観は見た感じそのママといったところでしょうか。

Raf Simonsが"What you see is who you are"とオドケながら話していたようですが、今回のコレクションはビジネスマン、父親、オフィス・ナードといった典型的な男性像を調査したかったとのこと。もちろんそれをそのままコレクションに描く訳では無く、Tim BlanksがレビューでSteve McQueenによる映画「Shame」を、Alex FuryがBret Easton Ellisによる小説「American Psycho」の主人公であるPatrick Batemanをそれぞれ引き合いに出してレビューしているようにコレクションのフォーカスポイントは「男の二元性」についてですね。

ロングコートにダーツの入った彫刻的なスーツ、セーラーカラーのニットに無垢のシャツとタイ、手にはもちろんグローブを嵌めて。ブラックレザーを前面に押し出したシリアルキラーのような各Lookは踵を返すと全く違う一面を見せる。クジラや魚、恐竜にラジカセといった無邪気なモチーフ。
優秀なビジネスマンとしての昼の顔とシリアルキラーとしての夜の顔、会社人間としての男と父親としての男、Raf Simonsは若者のままでいる父親を望むと話していたようですが、コレクションのLookはいろいろ想像して見るといろいろなものに見えて面白いコレクションだったかなと思います。正に、"What you see is who you are"ですね。

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Dolce & Gabbana 12-13AW Men's Collection

オペラの舞台をランウェイのバックにセットして行われたDomenico DolceとStefano GabbanaによるDolce & Gabbana 12-13AW Men's Collection。
サウンドトラックにLuciano Pavarottiの歌うGiuseppe Verdiの作曲による"La donna e mobile"(Rigoletto)を用いた今回のコレクションのタイトルは、"hymn to Italy"。コレクションの最初のインスピレーションソースとなったものはDomenico Dolceの父親が所有していた古いケープとのことで、Stefano Gabbanaによると、「我々はインスピレーションのために本または映画を観ることはありませんでした。今回のコレクションはすべて家族についてのコレクションでした。」とのこと。

ケープのLookからスタートしたランウェイショーはいつものようにスーツを中心に、シャーリングコートやベルベットジャケット、ニットにデニム、ドロップクロッチパンツにシルクパジャマといったアイテムを展開。ジャケットのラペルなどのエッジ部分をラフに切りっ放しにしたLookがいくつか目に付きましたが、今回のコレクションで一番目を惹いた要素としては多くのアイテムに施されていたゴールドの刺繍ですね。WWDで書かれているようにこれは2006年秋冬のナポレオン・コレクションを思い出させるもので、バロック・アウターウェアは彼らのアイデンティティであるマスキュリニティを強化する方向性で適切に機能していたかなと思います。

過去と同じようなことを繰り返すコレクションについて彼らは、「今日の若者のムードに応えている。」と話しているのがとても印象的。新世代は斬新なデザインに恐怖を感じるので今回のコレクションのようなものを望むでしょう、という発言は良くも悪くも時代の空気をよく表現しているような気がしますね。

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Valentino 12-13AW Men's Collection

Pitti Uomoのスペシャルゲストとしてメンズウェア・ランウェイショーをPalazzo Corsiniで行ったMaria Grazia ChiuriとPier Paolo PiccioliによるValentino。
Chiuriによると今回のコレクションのインスピレーションソースは、Michelangelo AntonioniやFederico Felliniによる映画(「甘い生活(La dolce vita)」など)や俳優のMarcello Mastroianniといった60年代前後のイタリアン・カルチャーの精神とのこと。それらをフェザーライトなファブリック、曲線を描く硬質なシルエットのコンストラクション、裏地にホースヘアーを用いたウールジャケットなど、現代のテクノロジーを用いて表現したものでコレクションの概念の基底には"sportswear couture"があったようです。

ブラック、チャコールグレーにディープブルー、そして、印象深いモスグリーンなどのカラーパレット。ウールとラムスキン等の異素材のミックスに、カシミアやジャパニーズ・デニムといったマテリアル。ミドル丈のコートやケープ、クラッチバッグなどがLookにリズムを与え、構築的でボクシーなフィーリングのジャケットにスリムフィットパンツと素足に履かれたレザーシューズによって描かれる男性像は、Piccioliによると「未来を志向しつつも伝統や文化を愛するValentino Man」とのこと。

Chiuriが強調して言うように今回のコレクションはランウェイ栄えする分かり易い新しさではなく、あくまでもクラフトマンシップに重きを置いたコレクションであって、それはValentinoが描く女性像に近いとのこと。Tim BlanksやSuzy MenkesがレビューしているようにValentinoのクチュール・スピリッツをメンズウェアの服の内部に注入するという挑戦が今回のコレクションには確かにありました。

Piccioliが言う"Modern sophistication"というキーワードが表すように、Valentinoというブランドで二人が行う初のメンズウェア・ランウェイショーということを考えるとトラディッショナルなスーツをフィーチャーしてそれを新しく見えさせようとする試みというのは自然な選択と言えるかなと思います。アイコンになるような通俗的な要素が存在しないコレクションは、二人のデザイン・デュオのメンズウェアにおけるステートメントとしては正統性があるコレクションでしたね。

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"Pretty Much Everything" Inez Van Lamsweerde and Vinoodh Matadin

Inez Van Lamsweerde and Vinoodh Matadinの20年以上に渡る仕事の中から666の作品を収めた"Pretty Much Everything"
世界1000部限定でシリアルナンバーと二人のサインが入った本書は、大判のハードカバー2冊の作品集と作品の解説に関する書籍1冊の計3冊から成る構成で、"Pretty Much Everything"という名前は2010年に彼らの故郷となるオランダのアムステルダムで行われた回顧展と同名のもの。この作品集のデザインはイネスとヴィノードの長年のコラボレーターであるM/M(Paris)が担当しており、作品集のスリップケースの外側には折り紙のようにポスターが付いているという面白い構成になっていますね。

2冊の作品集は年代順や各フォトストーリー毎にまとめられている訳ではなく、すべてのイメージは一見するとランダムに配置されているのですが、これらは(Style.comThe Cutのインタビューを読むと分かりますが)本の見開きの左右のイメージが互いに結合するように、インスピレーションとして関連性のある組み合わせになるように配置されています。本書の構想は今から9年前にイネスが妊娠している時にKarl Lagerfeldのアドバイスが切っ掛けで始まったようで、当初は年代順に作品を並べようとしていたようですが、想像していたほどイメージが生きていると感じられなかったので年代順に並べるのを止めてこの配置の仕方になったようですね。

「すべてのイメージの中には二元性や曖昧さがあります。美しいものとグロテスクなもの、スピリチュアルなものと世俗的なもの、ハイファッションとローファッションといったものに関わらず、そのような対立構造を成すものが常に。その中間的な瞬間があります。」とは作品について語るイネスの言葉ですが、二人の作品には確かにそういったフィーリングがありますね。そしてそういった作品はM/M(Paris)ととても相性が良いなと思います。ストレートにカッコいい作品も個人的には好きですけれど。

という訳で、少々値が張りますが"Pretty Much Everything"はとても良い作品集なので、気になる人は早めに入手しておくと良いかなと思います。

折角なのでもう一つイネスとヴィノードの話題を。
写真はArchitectural Digestから。息子のCharles Star Matadinも一緒に写っていますね。
彼らが住んでいるマンハッタンのアパートメントの記事があったので写真をピックアップしておきます。
こういう記事は彼らの違う側面が見れて面白いですね。「普段、彼らはこんなところに住んでいるんだ。」といった感じで。


Bruno Pieters New Project

先月の話題になりますが、雑誌のSENSEにDior hommeのKris Van Asscheのインタビューとアトリエの取材記事が掲載されていましたね。次のコレクションまでのスケジューリングを適切に行うということやスタッフに徹夜をさせないということなど、彼の健康的である意味優等生的なコレクションの理由がインタビューを読むと伝わってきて面白いなと思いました。Hedi Slimaneの服には病的な魅力がありましたが、クリスになってからそういうものがほぼ無くなっている要因にはクリエイションの方法論にもあるだろうことは容易に想像が付きます。デザイナーという観点から言えばクリスの考え方は進歩的でサステナブルだなと個人的には思いましたけれど。

それで上に載せた画像ですが、Bruno Pietersのオフィシャルサイトに行くと"JANUARY 30th 2012 A pioneering brand with a radical new model for the fashion industry will debut online at 7 p.m. cet"ということで、1月30日に何かを始めるという告知がされています。Bruno Pietersは昨年、Weekdayとのコラボが話題になっていましたが今回は何なのでしょうね。この情報はLesMads経由で知ったのですが、LesMadsでは映像から察するにユニセックスなライン?と書いていますが、はてさて。単純に新しいラインがデビューするのか、それとも何か面白い仕掛けがあるのか、30日を楽しみに待ちたいですね。

2012

年末年始はいつものように取り立ててすることもなく年末は映画を観たりして過ごしていましたが、年が明けて今日からセールが始まっていますね。気分的に既に春夏モードなのと先月、RestirとDior hommeのセールで軽く買い物をしたので足を運ぶ予定は今のところ自分は無いですけれど。春夏と言えばDior hommeの立ち上がりは20日(一般は21日)だったはずですね。春夏のプレコレクションは先月の中旬ぐらいからブティックに入荷している感じです。昨年の春夏シーズンは地震があって服がどうとか言ってる場合ではなかったので、今年は静かに春が迎えられると良いなと思っています。

2011年はいろいろとありましたが、(少し振り返っていろいろ書こうかと思いましたがこの話題だけ)Christian Diorの後任デザイナー問題はRaf Simonsという噂が出ていましたね。少なくとも1月下旬のクチュールと3月のRTWコレクションは引き続きBill Gayttenによるものになりそうな感じですが。誰がデザイナーに就任するにしても個人的に一番願うことは、Christian Diorというブランドを今までのように好きでいさせて欲しい、ということ。Marc Jacobsという話が出ているときは正直、Christian Diorというブランドを今までのように好きでいられるかあまり自信がなかったりしましたが・・。
後任デザイナーに関してはいろいろと噂が流れては消えていっていますが、なんとなくずっと思っているのはOlivier Theyskensが一番はまるのではないかな、と。Christian Diorのコレクションのクリエイション・プロセスにはBernard Arnaultの介入があるのでティスケンスでもビジネス的には大丈夫なのではないかなと思っていたり。Cathy Horynが書いているようにRaf Simonsでも面白いことをやってくれそうではありますけれど、ね。

そんなこんなで2012年も相変わらずな感じでBlogを書いていくと思うので、お暇な方は引き続きお付き合い頂ければと思います。