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a digital AD strategy beyond social media for Fashion

1.1万人のレイオフを発表したMetaですが、Metaの不振はAppleがiPhoneやMacのSafariに搭載しているプライバシー保護機能のITP(Intelligent Tracking Prevention)によって的確なターゲティング広告がし難くなったことと、メタバースへの過剰な投資がまだビジネスに結びついていないことに起因しています。
プライバシー保護については、Google Chromeも2024年後半までに3rd Party Cookieの廃止を目指しており、ターゲティング広告は厳しい状況に立たされています。

Twitterは従業員の約半分を解雇した後、今度は4400人から5500人の契約社員を事前予告なく解雇したと報じられています。また、ByteDanceが所有するTikTokに関してもCEOであるShou Zi Chewは、2022年の収益目標を当初は120億ドルから145億ドルとしていましたが、現在は100億ドル程度に下方修正しています。

過去10年以上に渡って隆盛を誇ってきたSNSは、アーンドメディアとして多くのファッションブランドの宣伝媒体として利用されてきました。そして、ファッション業界との人材交流もあり、2015年にInstagramはファッション・パートナーシップ責任者にTeen Vogueでビューティー&ヘルス・ディレクターを担当し、Lucky Magazineで編集長を務めたEva Chenを採用しました。一方、Pinterestは2020年9月にMarie ClaireのエディターであったAya Kanaiをコンテンツ&クリエイター・パートナーシップ責任者として採用しました(その後、彼女は2022年3月にGoogleに移籍し、Googleショッピングのエディトリアル&クリエイティブ責任者を務めている。)。

現在、SNSは前述したように苦境に立たされています。プライバシー保護機能によってターゲティングが制限されており、費用対効果も相対的に低下し、投資家からは収益化の圧力をかけられています。

Bottega Venetaは2021年1月にすべてのSNSアカウントを削除しましたが、まだどのプラットフォームにも戻っておらず、独自のアプリを立ち上げる方向に進みました。その他のファッションブランドは、Netflixのようなストリーミングネットワークでの広告を実験しており、NordstromTargetのような小売り業者は独自のメディアネットワークと広告プラットフォームを立ち上げています。本日、BalenciagaもTwitterのアカウントを削除し、NikeがWeb3を試行しているように誰も彼も一つ覚えのようにSNSに集中しなければならないということはありません。

欧米でリセッションの足音が聞こえ、ビッグテックが採用を抑制し、レイオフを始めているという事実。米国のインフレ退治次第ではありますが、このまま世界的な景気後退期に入るのだとすれば、これからの時代に必要なデジタル広告戦略というのが必要になるのかもしれません。

Does Twitter as a Rich Media Platform Dream of Personalization?

Twitterは速報性をコアにしたフロー型のアテンション・メディアであり、ユーザーをどこかのWebサイトやコンテンツに誘導するという役割や簡易なコミュニケーションを得意としたメディアでした。Twitterのタイムラインは、即時的な言葉の破片をノーコンテクストに滝のように流し続けます。

従業員との約1時間行われたQ&AセッションにおいてElon Muskは、Twitterへの決済や送金機能等の導入を検討していると話しており、既に決済業務を行うための事前申請を米国のFinCENに書類を提出しているとのこと。これはクリエイターがコンテンツをTwitter上でマネタイズすることができるようになるという話とも繋がり、また、WeChatのようにメッセージングからコンテンツの消費、決済まで、日常生活に必要な多くの機能を統合したスーパーアプリ化構想の一端であると言えます。

フロー型のメディアがその速度を落とすことなく、コンテンツのストックとマネタイズ機能を兼ね備えることができるのかは、根本的なサービスの設計思想から再考が必要になります。また、マスクが話しているようにクリエイターの収益の取り分を増やすのみで、クリエイターがコンテンツのアップロード先をYouTube等の既存のストック型サービスからTwitterに変更してくれるかは未知数です。

そもそもクリエイターはユーザーとの関係性によって既存サービスにロックインされており、コンテンツもYouTubeではミッドロール広告を意識して動画が8分程度の長さになっている等、そのサービスのアーキテクチャに依存したつくりをしています。ユーザーも既存サービスでは自分の趣味趣向が既に学習されているため、パーソナライズ化が実現されており、Twitterが新しくリッチメディアのコンテンツプラットフォームを開始したとしてもコンテンツの乏しさとユーザーの趣味趣向の未学習による貧弱なパーソナライゼーションに苦しむことになります(リッチメディアのコンテンツプラットフォームにはCDNを含むストレージや転送量という問題もありますが。)。

以前から個人的に思っているのは、Blog記事をXMLでエクスポートできるように、自分のパーソナライゼーションデータを既存サービスからエクスポート(ckptファイルやdiffusersモデルのように。)できて、他のサービスに移行可能にして欲しいというのはあります。これはAmazon等のECサイトのパーソナライゼーションデータにも言えますし、SpotifyからApple Musicに音楽サービスを変更するといった時も自分の趣味趣向データを移行できたら便利というのはあります。AIでは学習モデルが重要になっているように、パーソナライゼーションデータは個人資産として保持できる方がこれからの時代にはフィットしているのではないでしょうか。

マスクと従業員とのQ&Aセッションの中で、ホームタイムラインではユーザーの意図を把握するのが難しいと従業員が話している箇所があります。
YouTubeやAmazon等の既存サービスでは、ユーザーは自分が見たい動画や商品を一覧ページから選択し、詳細ページへ遷移して閲覧、または、購入に至ります。動画であれば最後まで閲覧されたか、途中で離脱をしたか、商品であればカートに入れたか、購入されたか、といったことからユーザーの趣味趣向の深さを推測することができます(もちろん、キーワード検索や過去の閲覧履歴等、ユーザーが起こすアクション全てからそれらはある程度の推測が可能です。)。

文章プラットフォームではスクロール量、ゲームであればプレイ時間等で同じように当該コンテンツとそのユーザーの関係性の深さ(どれぐらいそのコンテンツに興味があるか。)を推測することができますが、Twitterはホームタイムラインを上下に眺めるだけで大半のコンテンツを消費することができてしまうため、他のサービスに比較するとユーザーの行動データが取得しにくく、パーソナライズ化が難しいというのは従業員が話している通りと言えます。

一覧ページ、詳細ページ、カートページ、購入完了ページといったように下層ページ(Z軸方向)にユーザーを奥へ奥へと誘導させる設計になっているストック型のサービスやユーザーのキーワード検索をトリガーにするサービスはパーソナライズ化は比較的実現しやすく、逆にTwitterのようなフロー型のサービスは深度やユーザーアクションが乏しいため、パーソナライズ化は実現しにくいという構造上の問題があります。

また、YouTubeにはチャンネルという概念があり、ゲーム実況や釣り、ガジェット紹介といったように趣味趣向別にクリエイターが複数のチャンネルを持つことができ、ユーザーはそれらをチャンネル登録して購読するというスタイルのため、ユーザーの興味関心を把握することもし易い設計になっています。翻って、Twitterにはチャンネルという概念が無く、配信者とコンテンツ(ツイート)がダイレクトに繋がっている設計になっており、コンテンツがカテゴライズできないため、YouTubeのように複数の話題を扱うためには複数のアカウントを持つ以外には難しいという状況があります。

レコメンド機能や広告の精度を上げるには、ユーザーの趣味趣向、その時に置かれているユーザーのシチュエーションや心理の把握が不可欠になりますが、現状のTwitterはこれらが難しい傾向にあるでしょうか。

良くも悪くもElon Muskにはダイナミズムがあるので、この辺をどのように解決していくのかが個人的に気になっているところであります。

From Greenwashing and Greenhushing to Vegan Leather

過去10年間に渡ってH&Mが地球環境に配慮した製品を"Conscious"コレクションとして展開してきましたが、当局によるグリーンウォッシングの取り締まりの強化の影響で製品を撤去したとBoFで書かれていますね。

ここ数年、蔓延している曖昧で根拠のない誤解を招くようなサステナビリティ等を謳ったエコ・マーケティングは、終わりを迎えようとしている。英国のAsosとBoohooは、実際よりもエコ・フレンドリーであるかのように見せかけるマーケティングを行ったとして調査を受けており、また、H&Mは米国で集団訴訟に直面しています。

過去5年間、ラグジュアリー・コングロマリットであるKeringのFrancois-Henri Pinaultは、自社ブランドとサプライヤーに対して"inherent to luxury."と呼ばれるサステナビリティに沿った原材料の調達と製造のベストプラクティスへと導く基準を発表しています。これはブランドからの要望の高まりに応えるとともに、ヨーロッパで進む規制の波に先行することを意図したものです。

よりエシカルで環境に配慮した製品を求める消費者の需要がエコ・マーケティングに拍車をかけているとの指摘がありますが、それが実際の消費者の購買行動を必ずしも反映しているとは言えないのが現状です。つまり、エコ・マーケティングは想像よりもビジネスに繋がり辛い。そのため、当局による規制の強化によってエコ・マーケティングにリスクが高まるのならば、グリーンハッシング(企業が環境に配慮した製品かどうかを公表せず、黙ったままにする行為。)を企業が行うようになり、本質的なサステナビリティへの貢献からは逆に遠ざかってしまう可能性があります。

同様の話題として"Vegan Leather"の問題があります。「ヴィーガン」や「植物性由来」といったマーケティング用語で宣伝される製品は、実際は組成が想像とは大きく異なる場合があります。

現在、市場に出回っているレザーの代替品の大半は従来の合成樹脂のバリエーションに過ぎません。Z世代に人気のTelfarの"Bushwick Birkin"もポリエステルとポリウレタンのブレンドであり、Stella McCartneyのようなリアルレザーを一切使用しないブランドにも当てはまります。McCartneyは石油由来の合成繊維をヴィーガン素材としてリブランドすることに貢献しましたが、同ブランドは他の選択肢を模索しています。

Stella McCartneyだけでなく、PangaiaやRalph Laurenとも協業している米国のNatural Fiber Welding社による石油由来ではない植物由来の代替レザー"Mirum"。既にStella McCartneyの製品で使われている米国のBolt Threads社による茸の菌糸体からつくられた代替レザーの"Mylo"。イタリアのSqim社も同じく茸の菌糸体からつくられた代替レザーの"Ephea"を開発しており、Balenciagaの2022-23AWコレクションで発表されたフルレングスコートで使われています。

ただし、現状、これらの素材が利用できる製品は限られており、また、これらのカテゴリ内でも素材と特性にばらつきがあります。"Mylo"は菌糸体と植物由来の繊維を混合し、水性ポリウレタンで仕上げたものであり、"Ephea"はグリーンケミストリーを用いて安定化させた純粋な菌糸体です。

マーケティングとして顧客にこれらの複雑な素材を説明し、訴求する方法はとても難しく、前述のグリーンウォッシングのエコ・マーケティング問題と絡んできます。

現時点での結論としては、企業がグリーン・クレームに実際に沿っているかどうかを裏付ける客観的な統一基準が生まれない限り、当局からの風当たりは強いままになるということ。誰がどのように統一基準を定め、その基準の達成を誰もが検証可能な状態にするトレーサビリティと透明性の確保。そういったことが実現されてはじめて空虚なエコ・マーケティングではなく、本質的なサステナビリティは実現されると言えるでしょうか。

Twitter by Elon Musk

10月下旬にElon MuskがTwitterを440億ドルで買収し、世界規模で従業員の約半数の約3700人を解雇して話題になっていますね。
440億ドルのうち、130億ドルが銀行からの借り入れであり、マスクは年間10億ドル以上の利子を支払う必要があるため、Twitterはこれまでの赤字体質から脱却し、黒字化が求められているという状況にあります。

黒字化するためにTwitterのサブスクサービスであるTwitter Blueを現在の4.99ドルから7.99ドルに値上げし、そこに認証バッジ等の付加価値を付けることで収益に貢献させようと動いていますね。これまでのレガシーな認証バッジについては、通常の認証ルート以外でTwitterの従業員が1万5000ドルで認証バッジを販売していた疑いが告発されており、マスクもその調査に同意しています。

そもそも現在の認証バッジはマスクも指摘しているように、あまりに多くのユーザーに恣意的に配布されてしまっており、認証バッジの本来の意味や目的を失っているというのはあるでしょうね。Twitter Blueは米国などで問題なく動作していることが確認された後、翻訳して世界中に展開すると彼は説明しています。インドには一ヶ月以内を望んでいると話していますね。

Twitter Blueに無課金の場合、そのユーザーのツイートはアルゴリズムで抑制されるとの話があり(無課金ユーザーのツイートを見るには、たくさんスクロールしないといけなくなる。)、これが事実だとすれば無課金ユーザーは自然とシャドウバンされてしまっているような状態になるかもしれません。

他にも、長い動画をアップできるようにすると話しており、当初は1080pの解像度で42分を限度とし、その後、一ヶ月ほどで数時間の動画がアップできるようになると説明しています。そして、ユーザーはその動画で収益化を行うことができるようにもなるとのこと。現在、YouTubeの広告収入のユーザー側の取り分は55%ですが、それよりも多い取り分を考えているようです。尚、コンテンツの収益化については、動画だけでなくあらゆる形態のコンテンツを対象に検討しているようですね。

Twitterの現在の検索機能は98年のInfoseekを思い出させると言い、検索機能の強化も優先度を高めて改善を行っていくとのこと。
そして、現在の投稿文字数制限(英語等は280文字。日本語等は140文字。)を突破した長文を投稿できる機能を実装し、長文をメモ帳のスクショ画像で投稿する文化を終わらせるとも話しています。

Elon MuskがTwitterを買収してからかなりのスピードで物事が動いていますが、Twitterというプラットフォームがどうなっていくのかは気になるところですね。

Fashion by AI

ファッションデザインと生産のためのオールインワン・プラットフォームであるCALAがDALL-Eを用いたデザインツールを提供するとBoFで書かれていますね。プロンプトから新しい服のデザインを生成したり、デザイン画像をアップロードしてそのバリエーションを作成したりできるとのこと。

AIの発達によってファッションデザイナーの仕事はどのように変わるのか?という問いについて、CALAの共同創業者でCEOのAndrew Wyattは、2017年にハーバード大学デザイン大学院で行われたVirgil Ablohの講演を引用して話しています。Virgil Ablohは自身のデザインツールがiPhoneであり、WhatsAppであると話しています。彼は世の中の物事の写真を撮り、それをデザインチームに送信し、デザインチームはそのインスピレーションをベースにデザインスケッチやリアルなレンダリング画像をVirgil Ablohに返してきます。彼は自分のコンセプトを服に変換するためのチームを持っていました。

Miuccia Pradaはスケッチをせず、代わりに彼女のアイデアを翻訳するスタッフを持っています。DiorでRaf Simonsは、イメージやインスピレーションを記したファイルを用意し、それを基にデザインチームがスケッチを制作していました。川久保玲もスケッチはせず、彼女のデザインはほとんど言葉とイマジネーションで行っていると言っています。
今日のトップデザイナーは、カッティングやドレーピングといった技術よりも、コンセプトを重視し、その概念化を行うクリエイティブ・ディレクターが多くなっています。

テキストやリファレンスとなる画像を用いたデザイン(text-to-image, image-to-image)は、実際に現在の"generative AI"が提供しているものです。Andrew Wyattによると、CALAはデザインチームや多くのスタッフを有していない人でもその能力を利用できるようにしようとしていると説明しています。

ポルトガルを拠点とするFashableは、AIを用いて新しいファッションデザインを生成することができる機能を開発しました。共同創業者でCEOのOrlando Ribas Fernandesによると、AIを用いると簡単にコレクションを作成することができ、実際にどのアイテムを製造するかを決定するための需要予測の目的でその画像を使うことができるようになると述べています。これにより、売れる製品だけを製造し、予算の無駄を減らすことができます。ただし、このモデルには、コレクションの発表から商品の生産・出荷までに時間がかかるという課題があります。

メタバースの世界構築プラットフォームであるStageverseが、Stable Diffusionを用いたアバター向けのAI生成ファッションデザインツールを発表したりと、多くの企業が自分たちのビジネスにAIを取り入れ始めていますね。AIでレバレッジを効かせやすいのは、既にアセットを持っているプラットフォーム企業となります。

"generative AI"は、小説からイラストやデザイン、作曲から映像制作といったものを属人的な手工業から切り離して工業化し、everything-to-everythingで容易に大量生産を可能にするという技術です。"generative AI"を前提にしたクリエイティブ・ディレクターに求められるのは、何をAIにインプットするのかという想像力と出力されたコンテンツを判断する審美眼、そして、それらにコンテキストを付与してパッケージング化する能力といったところですが、この辺りは現在のクリエイティブ・ディレクターが行っているディレクションとあまり変わらないというのはAndrew Wyattが指摘している通りといったところでしょうか。