This is Not here - *//LIKE TEARS IN RAIN

Ann Demeulemeester 13SS Collection

蝶から影響を受け、服の構造と運動に関するコレクションとして提示されたAnn Demeulemeesterによる2013年春夏コレクション。

ランウェイショーはブラックをベースにしたアンらしいダークな色彩設計をベースに、エアリーな蝶の羽へと変化させたショールのような長いシフォンスリーブを多用しての展開。袖にジッパーの付いたスタンドカラーのクロップド・ブルゾン、フロアレングスのプレーンなドレス、コレクションに強さを与えるレザー・ハーネスなど、ポエティックな響きとディグニティーのある服たち。構造上の単純さは霊妙な美しさとして機能し、描かれる女性像の中で強さと優しさが高い次元で実現される。

蝶の堅い胴体と繊細な羽を服の構造と流動性という2つの次元へと還元してクリエイトされたコレクションでしたが、全体的に一昔前に戻った感覚があったかなと思います。そう自分が感じた理由は明確ではありませんが、野に咲く花がそうであるように、静かに風に揺れるファブリックの儚さは時代が変わっても美しくあり続けるということ。今回の彼女のコレクションが教えてくれたことは、そういう美しさに関することだったような気がしますね。

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Balenciaga 13SS Collection

今までで最もセンシュアルなコレクションだったというNicolas GhesquiereによるBalenciaga 2013年春夏コレクション。
今回のコレクションは肌の露出を多くし、ファブリックの運動と機動性、Cristobal Balenciagaのキュビズムとダンスの二元性を表現したかったようですね。

カラーパレットには抑揚の効いたシックなカラーをセットし、クリストバル神話から引用される螺旋状の固いひだ飾り、構造体として提示されるテーラリングやコート、シスターのように宗教性を帯びたクロップド・プルオーバー、ただのツイードではなく高密度の刺繍によるシャネル・ツイード・セットアップ、ショーに女性らしさを与えるスウィートハート・ネックラインなどによってショーは進行していく。ショーの終盤では、Jean Cocteauによる1960年の映画「Le Testament d'Orphee」のためにクリストバルがデザインした衣装に影響を受けたという有刺鉄線プリントのプリーツスカートやミニドレスが登場していましたね。
細かいところではありますが、ゴールドの指輪やネックレスも適切に機能していたかなと思います。

過去2シーズン続いていたキッチュさや80年代への言及は鳴りを潜め、ウェアラブルでアクセスのし易い女性性のあるコレクションだったのは良い方向性でしたね。通常、Balenciagaは空間構造を持つリジットなストラクチャーで有名ですが、今回はフラメンコ・スカートなどによって服の運動への言及があったのは面白いと感じました。ヘリテージへのアクセスを実験的な要素を用いて実現するというのが彼らしいコレクションだったと思います。

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Dolce & Gabbana 13SS Collection

ここ数シーズンの流れがそうであるように、今回のコレクションもシチリアの田舎町をテーマとして行われたDomenico DolceとStefano GabbanaによるDolce & Gabbana 2013年春夏コレクション。コレクションのタイトルは、"Saluti da Taormina"。Stefano Gabbanaによれば、「我々は我々なりにコレクションをしたいです。我々は流行であることを目指している訳ではありません。」とのこと。

夏の地中海の陽射しと陽気で情熱的な気分、リージョナリズムとシチリアン・ノスタルジーによってドライブされたコレクションは、騎士団やカルタジローネの陶器、ステンドグラスにビーチパラソル・ストライプといったものをグラフィック・モチーフとして展開。ポテトサックの麻袋からアイデアを得たものやショーの後半ではバスケットのようにラフィアを用いたコルセット、彼らのオートクチュールラインを示唆するクリノリンドレスも登場していましね。ヘッドスカーフやイヤリングも雰囲気をよく演出していたかなと思います。

毎回、ブランドのシグネチャであるシチリアの未亡人を描くコレクションは、インスピレーション不足と言えば確かにそうと言えますね。何か違う要素とミックスする訳でもなく、そのままストレートにシシリーのカルチャーを表現することの意味は・・。Nicole Phelpsも指摘するように、そろそろ自分たちの安全地帯から外に出る時間と言えるでしょうか。もちろん、Suzy Menkesの言うように"It is a mark of a strong designer not to be swayed by fashion's changes."ということも十分理解できますけれど、ね。

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Jil Sander 13SS Collection

スクウェア形のホワイト・ショースペースをランウェイにして行われたJil Sanderによる2013年春夏コレクション。
復帰後、初のウィメンズコレクションのテーマは、"Reset to Zero"。

ブランドのサインであるホワイトシャツに立体的に曲線を描くテーラリングのフォルム、モダンな響きのあるナロー・クロップドパンツにクリーンなAラインスカート、プレーンなチュニックはファブリックとスキンの間の空間をデザインすることにフォーカスし、7分袖やノースリーブのコートはリアリティとユーティリティを備える。穏やかで落ち着いた表情を見せながら進行していくショーは、ファッションの教科書に載るような正統性を持ったミニマリズムを忠実に描画していく。

Suzy Menkesが言うようにJil Sanderはミッドセンチュリー・モダニズムを再解釈し、スタイルを合理化することと社会における女性の活動の場を確立することにその人生を捧げた人物である。ミニマリズムはあらゆる年齢の女性に知性を付与し、その知性によって女性を自由にするというアイデアを包摂する。Cathy Horynが指摘するように、Jil Sanderというブランドが現在まで生き残り、ミニマリズムという概念が未だに時代遅れになるどころか、Phoebe Philoのような次の世代のデザイナーにその遺伝子が受け継がれていく状況はミニマリズムという概念の耐久性と射程の広さを如実に物語っていると言える。

Tim Blanksが書くように、UNIQLOとの3年間のコラボレーションが彼女にハイファッションの世界に戻るという動機を与えたのならば、それはファストファッションでは成し得ない何かがそこにあったということを示唆していますね。ハイファッションか、ファストファッションか、という選択はデザイナーにとってみれば世界を変える方法を選択することと言えるでしょうし。デザイナーに限ったことではありませんが、大切なことは自分に合った世界を変える方法を選択すること、ですね。

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Versace 13SS Collection

"Tailoring with a lingerie edge"をキーワードとして行われたDonatella VersaceによるVersace 2013年春夏コレクション。
ドナテラによれば、「Versaceというブランドはドレスとして有名であり、私たちのテーラリングの遺産は少し道に迷ってしまっていました。だから、今回のコレクションにはテーラリングが欲しかったのです。」とのこと。彼女自身もフィナーレでは、セットアップスーツを着て会釈をしていましたね。

シースルーのギピールレースを用いたランジェリーライクなチュニックにホットパンツと太腿丈のボーイフレンド・ジャケット、クリンクル加工されたTシャツやトランペット・スリーブの長袖シャツ、ブランドのサインであるメデューサがタイダイ染めによってあしらわれたミニ・フロックに金属装飾がなされたカクテルドレスなど。靴はLookに合わせてグラディエーターやレースアップサンダルを選択していましたね。イヴニングでは、メタルフリンジを用いたスリットの入ったフロア丈のドレスが登場。流動性を帯びるドレスのはためきがサマーシーズンのドレスという雰囲気を上手く出していたかなと思います。

コレクションの世界観は、夏の乾燥した少し砂漠の広がる荒野ということで、Vogue.comではSarah Mowerが来年夏のCoachellaのフェスに行けば今回のコレクションのようなヴェルサーチ・ガールがいるかもね、といったレビューをしていましたが、確かにそのような感じ。彼女が書いているように、ハンズフリーになるクロスボディ・バッグはダンスに最適ですね。

Pat McGrathによるメイクアップはドナテラが好きなスモーキーアイをフィーチャーしたもの。可愛らしくゴージャスで健康的なスキンは、夏の陽射しの中で太陽のキスを受けた輝きが表現されている。Guido Palauによるヘアスタイルは、ドナテラの好きなクール・レングスな髪をいつもよりもずっとナチュラルに仕上げたものとのこと。自然な感じのヘアスタイルは春夏との相性が良いですね。

今回のテーラリングの使用は確かにここ数シーズンで言えば新しさがあったので、個人的にはもっと多くのLookで見てみたかったかなと思います。ランジェリーとテーラリングのコントラストが彼氏のジャケットを着ている感を上手く表現していましたね。その他のLookもカジュアル・クールな感じでまとまってはいましたが、tFSなどで書かれているようにRoberto CavalliやD&Gっぽさもあったのは事実かなと思います。

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Prada 13SS Collection

フランスで活動を続けていた日本人シャンソン歌手である薩めぐみの曲をBGMにセットして行われたMiuccia PradaによるPrada 2013年春夏コレクション。今回のコレクションは、(ミウッチャがよく再訪する)60年代のCourregesを初めとしたミニマリズムとジャポニスムをミックスしたものでしたね。日本はデザインプロセスの後半に行き着いた場所であって、結果的にそうなったという意味合いが強いようですけれど。

ランウェイ前半から中盤に掛けてはほぼブラックを使用し、後半でホワイトやピンクが登場するというカラー構成。60年代のミニマリズムをベースにイースタン・ミニマリズムとして家紋や花模様を用い、着物などの影響をLookの中に取り込みながらショーは進行していく。
ウォーホールのデイジーのようなシンプリファイされたフラワー・パターンのアップリケに着物の帯の影響を受ける折り畳みの入ったスカート、COMME des GARCONSライクな花柄模様のスプリング・ファーコートに羽織のようなオフショルダーのサテン・イヴニングコート、草履や足袋のハラジュク娘カスタムバージョンはPradaらしいフェティッシュな響きがありましたね。分かり易い花の模様よりも、服に対して、畳む、折る、結ぶ、包む、といったアイデアを適用したドレッシングによって日本的であることが表現されていたのが面白かったかなと思います。ジャポニスムは、ある種の様式美として機能している面も大きかったでしょうか。

概念的には、女性の人生におけるタフネスとポエティックな部分、厳格さ(ジオメトリックなパターン)と繊細さ(象徴としての花)といった相対する要素をLookの中でバランスさせようとする試みとしてのコレクションでしたが、思想とその結果としての服が両立しているのが流石といったところ。描くべきテーマがあったとしてもそれを形として表現できる技術がなければ話になりませんし、技術があったとしても描くべきテーマや思想がなければ作品は作品として成立しない訳ですから。知識や理論とそれを高い次元で実現できる技術の両方があって初めてデザイナーはデザイナー足り得る、と彼女のコレクションを見ているといつもそう思わせられますね。

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Gucci 13SS Collection

Front RowにはCharlotte Casiraghiらを招待して行われたFrida GianniniによるGucci 2013年春夏コレクション。
フリーダからも説明があったように今回のコレクションのキーワードは、"aristocratic purism"。

Richard AvedonによるMarella AgnelliやTalitha Getty、Gloria VanderbiltらのポートレイトとGian Paolo Barbieriの作品を参照文に引用したコレクションは、60年代後半から70年代前半のヴァイブスに包まれていましたね。カラーパレットにはアザレア・ピンクやホワイト、ブルーにエメラルドをセットし、レトロでボヘミアンなイタリアン上流階級のムードを現代的にクリーンでミニマリスティックに表現していく。
ラッフルによって変化が付けられたノン・グラフィックの単純化されたドレス、ジャケットにはゆったりしたワイド・トラウザーやショーツを組み合わせて、パフ・スリーブのルーズな響きとコレクションの中で唯一プリントを持つパジャマのようなチュニックにパイソン・コートなど。イヴニングでは、モノトーンでシックなドレスが登場。ドレスは背中がカットアウトされているものが目を惹いたかなと思います。

シンプルなドレスにコーラル・ジュエリーなどのネックレスやイヤリングはその存在感がとてもありましたね。バッグは同じ型のショルダーとクラッチがデイウェアで使われていましたが、イヴニングでは透明素材のプレキシガラスのものがLookの雰囲気に良く合っていた印象です。

tFSなどで書かれているようにLanvinとValentinoのハイブリッドというのは確かに感じるところ。Frida Gianniniというデザイナーを一言で表現すれば、Suzy Menkesがレビューしているように"Ms. Giannini is not a designer to change the face of fashion, but she is sure to transform the red carpet."ということになるのでしょうかね。

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Burberry Prorsum 13SS Collection

ロンドン都市のスカイラインをランウェイのバックに映す演出によってスタートしたChristopher BaileyによるBurberry Prorsum 2013年春夏コレクション。今回のコレクションのテーマは、"Corsets and Capes"。

コレクションのテーマを象徴するようにピンク・サテンのコルセットにホワイト・ケープを合わせたLookからランウェイショーを開始。メンズの2013年春夏コレクションと同様にシャイニーでメタリックな色彩設計を用いつつも、よりシックに地に足の着いた女性像を描いていく。メンズよりもウィメンズの方がクオリティが高くなるのはいつものことですね。
ブランド・シグネチャのトレンチコートに肩までの短いネックケープ、ショーツはセクシーであることよりも可愛らしくあることにポイントを置き、オーバーサイズコートはCristobal Balenciagaのように緩やかなカーブをそのシルエットに保有する。

バッグは服に呼応するようにシースルーであったり、シャイニーであったりしていましたね。靴がウェッジヒールだったのも面白かったでしょうか。個人的に目を惹いたLookは(上にも写真をピックアップしましたが)ランウェイ後半でEdie Campbellが着ていたグリーンの孔雀の羽を用いたアーティザナル・トレンチコート。Prorsumがこういう方向性を垣間見せたのが少し新しい感じがあったかなと。こういう方向性で服作りを推し進めていくとパリやクチュールに行き着く訳ですけれど、ね。

Wendy RoweによるメイクアップはNorman Parkinsonの40年代の作品を参照点としたもので、少しだけ露にぬれた感触を持つ頬と真紅のルージュが特長的。Neil Moodieによるヘアスタイルはシンプルなストレートヘアで、ルーズな観察を表現したもの。あえてセットしないその髪は、夏の間、若くてフレッシュであるとのことです。

ドレスとランジェリー、そして、ケープにコートの狭間で揺れ動くコレクションは、ここ数シーズンのコレクションの中では完成度の高いものだったかなと思います。もちろん、実験的な要素が多くあるので違和感を感じる部分もありますが、各アイテムがスマートにLookとして落とし込まれていたのが印象的ですね。10年以上クリエイティブ・ディレクターを務めるChristopher Baileyですが、新しさを常に求めて自分の道をひた走る姿は素晴らしいの一言ですね。

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Christopher Kane 13SS Collection

"Wearable gift wrapping"というアイデアによってドライブされたChristopher Kaneによる2013年春夏コレクション。
カラーパレットにはホワイトやパステルトーンのピンクやイエロー、そして、淡いグレーなどを用い、リボンやレースのギフトパッケージのモチーフを取り入れた服によってショーは進行していく。

エンボス加工されたホワイトバイカー・ジャケットに短冊形のフラットでスクウェアなファブリックによるクレープ・ドレス、フェミニン要素としてのレースやリボンのトランスパレンシーなドレスにレースとジュエリーを組み合わせたシルクガザルコートなど。プレゼントボックスから着想を得た女性らしいサブジェクトにChristopher Kaneのダークサイドとして、ドレスのショルダーストラップなどにはアクリルのボルトとナットを採用し、フランケンシュタイン・プリントのトップスをランウェイにさり気無く登場させる。ジュエリーとレースのドレスにビニールテープをランダムに使用するというのも彼らしい遊び方だったでしょうか。

子供のオモチャや少女が夢見る世界といった無邪気な要素に捻りを加え、その捻りをフックとして作品の強度を増すという方法論を適切に作品として成立させられるというのがChristopher Kaneの実力の高さを証明しているかなと思います。彼のコレクションには安心感と面白さが適度にあって、そのバランス感覚がとても心地良いリズムを毎回刻んでいますね。

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Ralph Lauren 13SS Collection

スペインやラテンアメリカという彼にとってのエキゾチックな場所からインスピレーションを受けて行われたRalph Laurenによる2013年春夏コレクション。

カラーパレットにはブラック、ターコイズにレッドやホワイトをセットし、マタドール・ジャケットにセラーぺ・ストライプ、ラッフルやフリンジといった異国情緒な装飾要素とLauren Ladyがランウェイショーでタンゴを踊る。スエード素材を用いたショート丈のジャケットやブルゾン、差し色としてのヴィヴィッドなスカーフにエスニックなグラスビーズ・ネックレス、斜めに掛けた小気味良いコルドベスハットにベレー帽、ブランドのシグネチャとなるクラシカルなダブルのホワイトスーツにモダンな膝上丈のストラップレス・ドレスなど、古き良き合衆国の貴婦人とラテンの文化が融和する。

昨シーズンの"Downton Abbey"から影響を受けたコレクションに比べると大きな転換でしたが、Suzy Menkesがレビューしているようにどこを切り取ってもRalph Laurenのコレクションと言える形になっていたかなと思います。Miuccia Pradaのようなデザイナーがそうであるように、テーマの振り幅が大きかったとしてもブランドのアイデンティティがコレクションの中で確かに表現されるのが確立されたブランドであることの証左と言えますね。

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Marc Jacobs 13SS Collection

トライアングル形のステージをランウェイにして行われたMarc Jacobsによる2013年春夏コレクション。午後8時に始まったショーは、7分数秒という短い時間でフィナーレを迎えていましたね。Marc Jacobs曰く、「毎シーズン、ショーのスピード・レコードを破ることに挑戦し、理想を言えば、あなたが席に着く前にもう一回ショーを催したいね。」とのこと。

guardian.co.ukによれば、キャットウォークの速度を早くするというアイデアを初めて発明したのは今から65年前のChristian Diorまで遡ると言う。それまではモデルがパレードのように堂々としたウォーキングをすることが基本だったようですが、ムッシュ ディオールはそのスタイルを変え、よりきびきびしたウォーキングを発明したのだとか。その意図するところは、ショーのオーディエンスにもっと作品を見ることに集中して欲しかったからのようですね。
モデルの歩く速度が早くなると必然的に観衆は1つのLookさえも見逃さないように緊張感を持ってショーに集中することになる、というのは確かに理にかなったアイデアだと思います。今の時代のようにインターネットですべてのLookの写真とショー映像が繰り返し誰でも見れる時代ではなかった訳ですから。作品にもアウラというものが今よりも多くあった時代だったでしょうし。アウラに関しては、今でもFashion Weekのオフィシャル・スケジュールで行われる一回性を持った儀式としてのランウェイショーには多く存在すると個人的には思いますけれど、ね。

そんなマークの実験を含んだランウェイショーは60年代の空気をベースにしつつ、デッキチェア・ストライプやジラフ・プリントといった単純化されたパターン、クロップド・ミッキーマウス・セーターやシースルーシャツによるヘソ出しルック、そして、Cathy Horynが指摘するように90年代中盤のAlexander McQueenによる"bumster trousers"を想起させる腰履きされたプリーツ・スカートなどによって展開。イヴニング・パートではマイクロ・スパンコールによるオプアートドレスが登場していましたね。
Lookによって、とても短いサイハイ丈であったり、フロア丈であったりと緩急があったのも目を惹いた要素だったでしょうか。

目にインパクトを置いたFrancois NarsによるメイクアップとGuido Palauによる髪を横に流したレトロなヘアスタイルは、Edie Sedgwickをインスパイアしたもの。Marc Jacobsは否定したようですが、ヘアスタイルは少しだけAndy Warholのようにも見えましたね。

Cathy Horynが書くようにデザイナーには大別すると二つのタイプが存在する。一つはただただ美しいドレスをつくるタイプのデザイナー、もう一つは服に新しい意味や物語を吹き込もうとするタイプのデザイナー。もちろん、自分が興味があるのは後者のデザイナーであり、そういうタイプのデザイナーとは創作の延長線上に社会の変革を多かれ少なかれ意識をしている。
今回のマークのコレクションは、彼から"Young girls need to learn that sexiness isn't about being naked,"という説明があったように現代のセクシャリティに関するものでしたね。Marc Jacobsというデザイナーは新しい意味や物語を希求しつつも、トレンドの回遊性と回帰性を高める方向に行ってしまうことが多いかなと思います。Rachel Feinsteinが「毎回、カメレオンのように彼は趣向を変える。」という感想を述べたように、その様が大きな物語を構築するのを妨げていることは明白と言えるでしょう。Hamish Bowlesが彼のことを"Fashion Alchemist"と評していたのは色々な意味で納得できるレビューだったかなと思います。

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Steven Meisel's Midcentury House in Los Angeles

Architectural DigestにロサンゼルスにあるSteven Meiselの家が掲載されていたのでご紹介。
アーティクルは、Amber VallettaとGeorgina Grenvilleを撮った2000年秋冬シーズンのVersaceのAD Campaignに関する話題から始まっていますが、ビバリーヒルズのイメージからあのキャンペーンは生まれたようですね。


Alexander Wang 13SS Collection

Alexander Wangによる2013年春夏コレクションのランウェイショーは、DJ Slinkの"Put Cha Back In It"をサウンドトラックにセットしてスタート。「服が女性の体の上に浮きつつも、その構造を保っていて欲しかった。」というワンの説明があったように、今回のコレクションはファブリックのセパレーションを多用したものでしたね。

ブラック、ホワイト、グレーにベージュとアイボリー、そして、シルバーという色彩設計にはグラフィックプリントをほとんど含まず、ディセクションされたファブリックとその間から覗く皮膚のコントラストによってショーは進行する。直線的にカットされたレザーとジッパーによるブルゾンやジャケット、爽やかなホワイト・コットンのラウンドヘム・シャツドレス、ブランドのシグネチャであるスポーティーでストリート感のあるウインドブレーカー、解体と再構築によってドレスへと変形させたサマーセーター、ベースボール・ユニフォームをモチーフにしたスポンジ・レザーを用いたラウンドショルダー・Tシャツドレス、膝上のショートパンツやウェービー・スカートが若さを演出し、グラディエーター・ブーツなどのシューズは衣服と同じ世界観を共有する。

ヘアスタイルと簡素なメイクアップが仄かに言及するように、各Lookはトライバルな空気を僅かに包摂していますね。tFSなどではHussein ChalayanやGivenchy by Riccardo Tisciといったキーワードが出ていましたが、リピータブルなストライピングや直線的なカッティングのモノトーン・レザーは確かにそういった雰囲気があったと思います。
フィナーレではランウェイのライトが消され、ファブリックのフルーレセント効果がフィーチャーされていましたが、個人的にこのギミックは少し蛇足だったかなと。モデルのキャスティングに関しては、Liberty Rossが歩いていたのが話題になっていましたね。

いつものようにアーバンライフを送るクールでヒップなストリート・ガールを描くというAlexander Wangらしいコレクションでしたが、彼のコレクションを見ているとこのままNew Yorkで作品を発表し続けていくのか、それとも将来的にはParisなどに場所を移すことを視野に入れているのか、といったことがぼんやりと頭に浮かびますね。まだ28歳ということもあるので、そこまで先のことは考えていないのかもしれませんけれど。クリエイションという点で言えば、その前にやらなければならないこと(New Yorkで20代でなければ描けないこと)はたくさんあると言えばそうでしょうし、ね。

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Jason Wu 13SS Collection

2013年春夏シーズンのFashion WeekがNew Yorkから開始されていますね。
という訳で、まずはいつものようにJason Wuのコレクションから。

Helmut NewtonとLillian Bassmanの作品からインスパイアされたという今回のコレクション。ランウェイショーは、Carolyn Murphyのウォーキングからスタート。
ブラックとホワイトをベースにベージュやコーラルピンクを加えたカラーパレット、ランジェリー・ブランドであるLa Perlaとのコラボレーションによるブラやコルセット、ウエストを強調したペンシルスカートにジャンプスーツ、Jason Wuらしいショーツとジャケットを組み合わせたスタイリング、ランウェイ終盤のイヴニング・パートではそれまでのLookにレースの透け感を上手く加えてシンプルにドレスを表現していましたね。ハットボックスやバケットバッグ、レオパード・ボウクラッチといったバッグが登場していたのも目を惹いた要素だったでしょうか。

Odile Gilbertによるヘアスタイルは片方の髪をサイドに流し、もう片方の髪を後ろでシニョンしたクラシカルなスタイル。Diane Kendalによるメイクアップはギルバートのヘアスタイルに呼応するように、薄いピンクの頬に真紅のルージュといったシンプルなもの。
いくつかのLookで見られた顔を覆うベールやロングレースのグローブは、少しだけミステリアスでクラシックな空気をランウェイに運んでいましたね。

ニュートンのフェティッシュなエロチシズムをレザー・ハーネスやレースのアンサンブルを用いてランウェイに描き、リリアンの光の陰影をモノクローム・フラワープリントやレザーの質感によって上手く形象化していたかなと思います。今回のコレクションはJason Wuらしい可愛らしさを残しつつも、インスピレーションソースの影響を受けて普段よりも少しだけアダルトな雰囲気の女性像でしたね。セクシャリティをあくまでも上品に表現していたのが彼らしいコレクションだったと思います。

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CR Fashion Book's New site

Carine RoitfeldによるCR Fashion Bookのサイトがローンチしていますね。
Issue #1のインスピレーションソースは、彼女の娘であるJulia Restoin Roitfeldが孫を出産したことにあるようで、テーマは、"rebirth"とのこと。誌面は、birth, pregnancy, and familyといったイメージやアイデアで溢れているようですね。


WSJ Magazine: Alber Elbaz's Soapbox

WSJ Magazineに掲載されているAlber Elbazのインタビューがとても面白かったので、いつものようにエディットして少し書いておきます。彼が話している内容はいずれも首肯できて、Lanvinというブランドと彼は一心同体なんだなというのがとても伝わってくるインタビューですね。自身のチャーミングな体型とクリエイションの関係性の部分については思わず笑ってしまいましたけれど。

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モロッコ生まれのAlber ElbazはニューヨークのGeoffrey Beeneでそのキャリアを本格的に開始し、1997年にパリに移住する。そして、Yves Saint LaurentではGucciグループが同ブランドを買収したことをきっかけに短期間でTom Fordにリプレースされることになり、最終的に彼は当時、ブランドとして辛うじて息をしていたLanvinへ移ることになる。
2001年にエルバスがデザイナーに着任してからLanvinはほとんど一夜にして復活を遂げていく。ミステリーとウェアラビリティの珍しい組み合わせに、デザイナーの感受性を反映した服たち。直観と感情をクリエイションの起点にする彼はトレンドを頑なに無視すると言う。

自分自身のことを「美しいホテルのコンシェルジュ」に例えるエルバス。それは、ゲストとあまり親しくすることをせず、Lanvinのスター・クライアントの注目を集めるようなソーシャルライフを避ける方が顧客が求めるものを想像することができて良いからなんだとか。メディアに露出し、作品よりも自分が前に出るような創り手ではなく、あくまでも裏方に徹し、主役である女性を美しく描くことにフォーカスするというのは、Lanvinというブランドを見ていればとてもよく感じることですね。

以前はデザイナーが他のデザイナーを嫌っている時代があったが、今日のデザイナーは互いのストレスの多い境遇を理解し合い、お互いにリスペクトし合っているという。そしてそれはある種のファミリーのようでもあると話す。ちなみにエルバスが唯一、ジェラシーを感じる人たちは、「食べても太ることができない人たち」とのこと(笑)。

ファッションがファミリー・ビジネスであった時代が過去にあった。しかし、現在のファッションは非常に巨大で肥大化してしまっているという。クリエイションにおいてとても重要なことはミスが許される環境がそこに存在しているかにあり、ファミリー・ビジネスであった時代にはミスを犯してもそこから多くのことを学びやり直すことができる世界があった。
Lanvinのデザインスタジオには役職などの階層が存在せず、誰もが一緒にランチを食べ、スタジオには一体感があるという。もしあなたがある組織の中で真実を知ることを望むならば、あなたはその組織の中の最下部にある(物事の起こる)現場に行かなければならないとエルバスは話す。組織の上層で真実を探そうとするならば、大抵、それはフェイクしか見つからないのだと。

そう話す彼は、ファッション・インダストリーが今よりも小さくなって、デザインやクリエイティビティの世界に戻る時間であると言う。それはマーケティングではなく、直観と感情への回帰、創造性の再生についてであり、仕事の本質とは人々を喜ばせることにある、と。
ファッション産業の肥大化とクリエイティビティに関する話は、過去にあったSarah BurtonとGuido PalauのInterview Magazineのインタビューでも出てきた話題ですね。巨大化する産業とは対称的に創造性とは本当に数人の小さな関係性の中で発揮されるものだというのは正にその通りと言えるでしょうか。

Lanvinにおいて所謂「ミューズ」が存在しないのは、ある一人の女性のためにコレクションをしている訳ではないからであって、彼は様々な女性や年齢、異なる体型や人種のためにコレクションを制作しているという。そして、デザイナーに必要なことは幼児のようなアンテナであり、デザイナーとは子供っぽくてナイーヴであるとのこと。デザイナーは物事のある瞬間を捕え、それを仕事の中に反映させることをしなければならないと彼は説明する。子供や家族を持たないエルバスは服をデザインしているとき、それは新しい家族をつくっているように感じると話す。

今日の世界においてモダンでクールなものとは、どこかに醜さを含んだものである。だからと言って(純粋な)美しさというものが時代遅れかという言えば決してそうではなく、美しさとは誰もが探しているものだとエルバスは言う。
美しいものに触れること、それは女性に美しさを感じさせる。そして、美しさは女性に強さとパワーを与える。美しさとはこの世界のどこかにある天然物質の一つであり、彼が知っている唯一の表現方法である。

時々、女性は自分自身を抱きしめるためにシフォンのドレスを必要とする。そして、ドレスがその女性を抱きしめ、ドレスが自身のことを愛していると感じるなら、その女性は強さと共に自分が守られていると感じるでしょう。
ある女性は彼女がLanvinを着る度に男性が彼女と恋に落ちると話し、ある女性は離婚で夫の弁護士に対面するときにLanvinを着ていたので自分は守られていると感じたという。この2つのエピソードはいつもエルバスが帰る場所であり、「男性を女性と恋に落ちさせることができ、そして、女性を守ることができるならば、私は穏やかに死ぬことができるでしょう。」とのこと。

彼のボスであり、家族でもあったGeoffrey Beene。エルバスもビーンもオーバーウエイトであるという共通点があったので、二人のファンタジーは「軽さ」にあったという。そしてそのファンタジーによって彼は、Lanvinのコレクションでとても軽い服をつくっているのだとか。だから、もし彼がダイエットをしてしまったら重い服をつくることになるかもしれないので、彼は痩せるのがとても怖いとのことです(笑)。