翻って、ファッションというメディアにおいてもそのメディア特性がそこに流通するメッセージの内容を規定している。ファッションとは着用者のヒューマニティ(メンタリティ、アイデンティティ、etc.)を表現すると同時にそれらを強化・拡張するというメディア特性を持つ。その特性がファッションというものを規定しており、従ってデザイナーはその時代に合わせた男性や女性の内面性を含めた理想像を描くことになる。
Christian DiorとChanelというビッグメゾンが"Lightness"にフォーカスしたクチュールコレクションを今回行ったことの意味は、きっとそういったところにあるのでしょうね。
Mark HolgateやSuzy Menkesらが指摘するようにAndre CourregesやPaco Rabanne、Pierre Cardinといった1960年代フューチャリスティック・フィーリングが微かにありましたね。ラフの場合はクレージュ等をそのまま参照するというよりも、Miuccia Pradaを通して参照している感じがあるかなと思います。
Anna BattistaがPaolo Scheggiの作品と川久保玲によるComme des Garcons Homme Plus、そして、今回のChristian Diorのコレクションについて論じているのが面白いですね。
Comme des Garcons Homme Plusは1981年のコレクションっぽくもありつつ、ジャケットのポケット部分をカットすることで機能性を無効化するという提案がありました。もちろんそこには、カットされた穴から覗くインナーによって視覚効果を齎すというデザインの意図があります。ちなみに、ガスマスクのようなJulien d'Ysによるヘアスタイルは同様に「穴」をモチーフとしつつも、ヒンズー教の象神「ガネーシャ」をイメージしたもので、"Holy"と"Holey"のダブルミーニングになっていますね。
Christian Diorのパンチング・カットワークも同様に「空間と視覚効果の並置」という意図がそこにはあり、また、スポーツウェアのメッシュ構造のような通気性という(着用者を快適にする)機能を実現していますね。「空間と視覚効果の並置」とは、ミニマリズム的に言えば「空間を視覚化する」(今回の場合は、ファブリックをカットすることでその空間を視覚化することに成功している)ということになります。
1つのアイデアで複数の問題を解決しているというのが、カットワークというテクニックの有用性を指し示していると言えるでしょうか。
「(コレクションにおいて)コンセプトが無いことは、本当に初めてのことです。それは、より非常に抽象的です。」というラフの説明がありましたが、今回のコレクションは最近表出してきたRaf Simonsらしさや彼のクセがほぼ消失していたかなと思います。ほぼ1つのアイデアで最初から最後まで展開されているというのも単調な印象を与えましたね。Pre-Fallの方が多様性があって良かったかなと。tFSでは、Balenciaga by Alexander Wangのようだという指摘もありましたが、分かり易いスウィートなコレクションが若手デザイナーっぽさを感じさせたのだと思います。こういった点についてラフはもちろん自覚的であり、それでもなお今回のコレクションを提示するに至ったのだと思うのですがどうでしょうか。
Tennis Club de Parisにパーケットのランウェイを設置して行われたKris Van AsscheによるDior homme 2014-15 Winter Collection。Front Rowの各シートにはインヴィテーションにもコラージュされていたスズランの花が置かれていたようです。
ポルカドットやスターを点在させたセットアップ・スーツやシューズ、ロング丈のファー・コート、ムートン・レザー、アメカジ色の強いブルー・デニム、ランニングシューズ、6ポケット・ブルゾンにカーキ色のミリタリー・エレメントなど。ランウェイショーは進行するにつれ、フォーマルの中にインフォーマルな要素を侵入させていくことで多様性を企図していましたね。クリスによれば、"imposing more variety"とのことで、多様性はオータムコレクションから継続のようです。多様性について彼は、「(コレクションには)一つのタイプの男性像ではなく、多くがあります。」「これはクローン(人間)であるということよりも、個々人の個性についてです。」と話していますね。
しかしながら、いつものようにテーラリングのクオリティの高さとそれ以外の要素とのアンバランスさが気になったかなと思います。デニムの使い方は全体的にもう少し研究が必要な感じでしょうか。前任者であるHedi Slimaneや他ブランドのような安易な使い方はしないという彼の姿勢は好きですけれど。ドロップショルダーのオーバーサイズコートは引き続きの提案でしたね。
インヴィテーションはM/M (Paris)によるもので、キャンバスの裏/テーラリングのストライプ生地/鈴蘭がコラージュされていますね。"Superstition is the poetry of life."はゲーテの格言になります。
そして、プレビュー画像を見ると3Bジャケットの胸ポケットにエンブレムがありますが、植物か何かをモチーフにしている感じでしょうか。インヴィテーションのキャンバスの裏、鈴蘭といったモチーフ(アートとガーデン)は、ムッシュ ディオールとの関連性を思わせます。あと、シャツの襟はピンホールカラーになっていて、アクセサリーが付いているように見えますね。ジャケットの右前身頃にあるラインも気になるところ。