ルーブル美術館の中庭でNicolas de Grignyの"Recit de tierce en taille"からインスパイアされたBryce DessnerとWoodkid(Yoann Lemoine)による"Three Hundred and twenty"、そして、Catherine SimonpietriによるSequenza 9.3のヴォーカル・パフォーマンスをサウンドトラックに、15世紀から1950年代までの衣装を着た200人をバックに披露されたNicolas GhesquiereによるLouis Vuitton 2020-21年秋冬コレクション。
Stanley Kubrickの"Barry Lyndon", "A Clockwork Orange", "The Shining"、そして、Sofia Coppolaの"Marie Antoinette"などの衣装を手掛けたMilena Canonero。そして、5月からメトロポリタン美術館で行われる予定のLouis Vuittonが後援するコスチュームインスティテュート・エキシビジョン"About Time: Fashion and Duration"を主題に据えたコレクションは、タイムレス、エイジレス、ジャンルレス、ジェンダーレスに異なる文化やキャラクター性をミックスしたブランド・シグネチャーの時間旅行として進行する。
在りし日のBALENCIAGA by Nicolas Ghesquiereを惹起するリミックスコレクションは意図された混乱を内包したものでしたが、ソフィスティケイションやエレガンスよりも実験性とカジュアルウェアに傾斜していましたね。トップスとボトムスの二分法を基本としたものでしたが、もう少し追加のアイデアが必要であったでしょう。軸足もスタイリングよりデザインに置くべきだったかなと。カラーパレットもコントラストが低く、全体的にくすんだ印象を受けます。
Anna PiaggiとKarl Lagerfeldの1枚の写真をインスピレーションソースとするセブンリーグブーツとクラバット。Anna Wintourによる最初のVogue USの表紙を飾ったChristian Lacroixのジャケットを思い出させるアクセサライズなビザンチンクロス・ニットウェア。ラペルや袖に見られる波打つスカラップに、透け感を与えるレースやパーフォレーションの採用。Coco Chanelと乗馬との関係性から取られたジャケットに見られる腕章やペガサス・モチーフ、メタルボタンの連続性とサイドスリットが存在感を放つジョードプルパンツはコレクションを駆け抜ける。
前述のニットウェアは1930年代にCocoの友人で後にChanelのジュエリー・ヘッドデザイナーを務めたイタリア人ジュエラーのFulco di Verduraがデザインしたマルチーズクロスカフなどに見られるビザンチン・デザインの影響を受けたものであり、それは今回のコレクションにおけるジュエリーの主題でもある。
Rianne van RompaeyとVittoria Cerettiがおしゃべりしながら務めた1st Lookは、Hamish Bowlesが言うようにコレクションにさり気無さを齎し、気取らない、ウェアラブルでアクセスのし易いワードローブであることを示唆する。Vanessa Friedmanはそれを覗き見しているようだと評しつつ、壮大なテーマセットの欠如に関しては服に意識を集中させるという副作用を起こしているとも。
それぞれのLookに対して別ジャンルの完全に独立したCalx Viveによるサウンドトラックを用い、それぞれが相互作用なしに独立した形で披露された川久保玲によるComme des Garcons 2020-21年秋冬コレクション。
"Is it impossible to make something completely and utterly new, since we are all living in this world?"という川久保の問いとそれに対する"Continuing my work as a perpetual futurist, I worked from within the CDG world."という自身の回答が今回のコレクションのベースラインとなる。
"Neo Future"と題されたコレクションは、Lumps and Bumps(1997SS), Broken Bride(2005-06AW), White Drama(2012SS), The Future's in Two Dimensions(2012-13AW), Not Making Clothes(2014SS)といったCDGユニヴァースをディグったミクスチャーとして進行する。身体と衣服の関係性、彫刻、円環、被覆、隆起、反復、フラグメンテーション、ディメンション、そして、レースのベールに見られる宗教性。全てを解体し、記号と意味を溶かした抽象性の泉から汲みだされるプリミティヴな高純度のオブジェクトとその組み合わせ。
捨象と抽象、概念放棄による本質や超越へのアクセスが老練な彼女のクリエイションの中心に存在し、それによって新しい何かを生み出そうとする企図があります。
Tim Blanksが書いているようにコレクションタイトルの"Neo"には「新しい」の他に「復活」という意味があり、過去の広範なアーカイヴを用いたコンピレーションは「再臨」の意味があります。各Lookが独立した可能世界も持ち、複数性のある未来を描くアルティメットCDGユニヴァースですが、共通項としてあるのはクリエイティヴィティやインスピレーションそのものを具体として抽出する試みだと言えるでしょう。