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Kvadrat / Raf Simons 2020

2014年から続くKvadratとRaf Simonsのコラボレーションプロジェクトである"Kvadrat / Raf Simons"。その新作コレクションについてWallpaper.comに記事が出ていましたね。

「ファブリックの感触を少し変えてみたいと言ったんだ。」とラフがアプローチについて説明する新作コレクションは、HeliaとSilasという2つの新しいラインから成るもの。これまでのコレクションは、色のダイナミックな並置とKvadratの歴史的な技術に基づいたものでしたが、「今回のコレクションでは今までのコレクションをストレッチし、物理的にも視覚的にも触覚性と表面の要素を加えたいと言いました。」と彼は話す。

彼の生活において家というものはこれまで以上に欠かせない場所になっており、「家は私がすべてをスローダウンすることができる場所です。機能性、安らぎ、プライバシーについてますます考えるようになりました。」と言い、ベルベットのような少し波打つテクスチャが特長的なSilasファブリックに家庭的な雰囲気を彼は感じており、「あまり素朴過ぎず、クリーン過ぎず、ずっとそれと一緒に暮らしているような感覚を味わえるようなものをクリエイトしたかったのです。」と説明する。

一方、毛皮のテクスチャに似せて織り込まれたブークレ・テキスタイルであるHeliaファブリックについては、「当時、Jil Sanderでの自分の時間について考えていました。カシミアを使うことは日常的なことであり、このブランドは文字通りの意味だけでなく、ある種の感覚的な意味においても快適さとラグジュアリーのアイデアに踏み込んでいました。」と話す。

「最も興味があり、夢中になっているものの1つはカラーです。」と彼はパレットの選択について語る。HeliaとSilasの2ラインは新色として、ソリッドで暖かく、土のような色の領域をカバーしている。「いくつかのテディベア・カラーもあります。」と彼はビスケット・トーン・カラーについて言及する。

ラフは人間の感覚と体がHeliaとSilasとどのようにインタラクトするかについて熱心であったとのこと。表面の質感と肌触りに関する探求が今回のコレクションの中心にあるようですね。

Louis Vuitton 20-21AW Collection

ルーブル美術館の中庭でNicolas de Grignyの"Recit de tierce en taille"からインスパイアされたBryce DessnerとWoodkid(Yoann Lemoine)による"Three Hundred and twenty"、そして、Catherine SimonpietriによるSequenza 9.3のヴォーカル・パフォーマンスをサウンドトラックに、15世紀から1950年代までの衣装を着た200人をバックに披露されたNicolas GhesquiereによるLouis Vuitton 2020-21年秋冬コレクション。

Stanley Kubrickの"Barry Lyndon", "A Clockwork Orange", "The Shining"、そして、Sofia Coppolaの"Marie Antoinette"などの衣装を手掛けたMilena Canonero。そして、5月からメトロポリタン美術館で行われる予定のLouis Vuittonが後援するコスチュームインスティテュート・エキシビジョン"About Time: Fashion and Duration"を主題に据えたコレクションは、タイムレス、エイジレス、ジャンルレス、ジェンダーレスに異なる文化やキャラクター性をミックスしたブランド・シグネチャーの時間旅行として進行する。

カラーブロックされたモーターサイクル・グラフィックジャケットやレーシングスーツに、レザーやチュールのボリューミーな多層性スカート、ボレロやピンストライプ・テーラリングを組み合わせ、ドレスコードの時間圧縮とランダムアクセスによってスタイルの衝突を意図的に引き起こす。スポーツウェアやストリートウェア、モーターサイクルウェアとエレガンスの並置。Nicolas Ghesquiereが車の改造を引き合いに出して「サルトリアル・チューニング」と呼んだ今回のコレクション。彼は更に「それはジャンルのアナクロニー(時代錯誤。時代の流れに逆らうもの。)のようなものです。プロトコルや制約のない純粋にドレッシングの喜びとその多くの可能性に関するものです。」とコレクションを説明する。

歴史性と現代性を混ぜ合わせたタイムトラベル・パナシェ。スタイリングに主軸を置いたアンチ・トータルルック。描かれる女性像のアブストラクトな流動性とコントラディクション。

在りし日のBALENCIAGA by Nicolas Ghesquiereを惹起するリミックスコレクションは意図された混乱を内包したものでしたが、ソフィスティケイションやエレガンスよりも実験性とカジュアルウェアに傾斜していましたね。トップスとボトムスの二分法を基本としたものでしたが、もう少し追加のアイデアが必要であったでしょう。軸足もスタイリングよりデザインに置くべきだったかなと。カラーパレットもコントラストが低く、全体的にくすんだ印象を受けます。

「旅」という概念は同ブランドがバッグに持つアイデンティティであり、何度も再訪され、顧客に発せられる概念であります。ウェアにアイデンティティを持たないブランドは、当然、その周囲を概念流用によって周回することになり、主従関係が必然的に決定します。

ウェアにアイデンティティを持たないブランドにおいて、ウェアにアイデンティティを持たせることの困難さ。バッグを売るための巨大なシステムからの脱却は鍵のかかった箱の中に鍵があるような状態であり、そのタイムパラドックスを解くことがこのブランドのデザイナーに課せられた使命であると言えるでしょうか。

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Chanel 20-21AW Collection

緩やかにカーブした階段状の抽象的なブランド・シグネチャーであるモノトーンのショー・スペースに、ドライアイスを焚いた鏡面のランウェイ。Grand Palaisに壮大なテーマセットを構築するという前任者の伝統に変化を加えて披露されたVirginie ViardによるChanel 2020-21年秋冬コレクション。

Anna PiaggiとKarl Lagerfeldの1枚の写真をインスピレーションソースとするセブンリーグブーツとクラバット。Anna Wintourによる最初のVogue USの表紙を飾ったChristian Lacroixのジャケットを思い出させるアクセサライズなビザンチンクロス・ニットウェア。ラペルや袖に見られる波打つスカラップに、透け感を与えるレースやパーフォレーションの採用。Coco Chanelと乗馬との関係性から取られたジャケットに見られる腕章やペガサス・モチーフ、メタルボタンの連続性とサイドスリットが存在感を放つジョードプルパンツはコレクションを駆け抜ける。

前述のニットウェアは1930年代にCocoの友人で後にChanelのジュエリー・ヘッドデザイナーを務めたイタリア人ジュエラーのFulco di Verduraがデザインしたマルチーズクロスカフなどに見られるビザンチン・デザインの影響を受けたものであり、それは今回のコレクションにおけるジュエリーの主題でもある。

Rianne van RompaeyとVittoria Cerettiがおしゃべりしながら務めた1st Lookは、Hamish Bowlesが言うようにコレクションにさり気無さを齎し、気取らない、ウェアラブルでアクセスのし易いワードローブであることを示唆する。Vanessa Friedmanはそれを覗き見しているようだと評しつつ、壮大なテーマセットの欠如に関しては服に意識を集中させるという副作用を起こしているとも。

前任者であったラガーフェルドは壮大なテーマセットによってコレクションの全体を貫くアイデアを前面化する手法を常としていました。時にそれはクリエイションの弱さをカバーするためだという批判的な見方を醸成しましたが、それらが適切に機能すればコレクションに一気通貫の強度を与えるというのは事実としてありました。

今回のコレクションを含めてVirginie ViardによるChanelはクリエイティヴィティに乏しく、せめてテーマセットの力を借りる必要性があるのではないか?という問いが思い浮かぶのは自然なことと言えるでしょうか。ただ、ラガーフェルドが地に足をつけたファンタジーを描いたのに対し、ヴィアールは単にリアルを描くという作風の違いがあり、ラガーフェルドのようなある意味でカリカチュアライズとしてのテーマセットを彼女に求めるのは違うでしょうね。

Chanel本体やParaffectionの唯一無二のアトリエには適切なインプットやディレクションが必要であり、それらがあってこそはじめて素晴らしいアウトプットが期待されるということ。多くのブランドにおいて偉大なデザイナーの交代の後に見られる事象がこのビッグメゾンでも起きていることであり、デザイナーの才能というものがどれだけ稀少で代替不可能な資源であるのかということを我々に教えてくれますね。

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Valentino 20-21AW Collection

「我々の時代のポートレートを描きたかっただけです。」「すべてがより流動的です。人々を型に嵌めないことが重要です。もしあなたが公民権を支持するならば、あなたはすべての公民権を支持することになります。私はあるグループを他のグループよりも支持するということをしたくありません。」と語ったPierpaolo PiccioliによるValentino 2020-21年秋冬コレクション。

過去数シーズンに渡りモデルの多様性を支持してきた彼は、ウィメンズとメンズの混成、そして、トランスジェンダーモデルを加えて更に多様性を推し進める。性別と性的指向と外見が完全に分離独立した現代における新しいファッションの探求。それはメンズウェアを女性が、ウィメンズウェアを男性が単純に着用するという安易なパフォーマンスではなく、伝統的なバイナリー・ワードローブの相互置換とその緩やかな結合を意味する。

Marlene Dumasが描いた抽象的なポートレート作品をムードボードに、Billie Eilishをサウンドトラックにセットしつつ、レッドやベージュを差し色としたブラックとネイビーが大半を占めるカラーパレット。
静かに光るスパンコール・タートルネック。薔薇の花びらを重ねたロングコートやコルセットにクラッチバッグ。レザースカートやレザーグローブ、そして、レザーブーツと点在するレザーの質感。メンズウェアコレクションからカメオ出演となるフラワープリント・コート。シックなレオパードによるオフショルダーニット。シースルーによって言及されるセクシュアリティに、スラックスワイドパンツの組み合わせ。
イヴニング・パートはスパンコール刺繍をベースにしたフロア丈のドレスを中心にし、Adut AkechのLookでフィナーレを迎える。

ブラックを中心としたシックなコレクションではありましたが、全体的に鈍さを感じさせますね。少数のLookは完成度の高さを感じさせますが、それ以外のLookは何が言いたいのかが不明瞭な印象を受けます。
おそらく多様性への言及が目的化していることがその一因ですが、欲しいのはその先にある新しい美学と言えるでしょうか。

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Comme des Garcons 20-21AW Collection

それぞれのLookに対して別ジャンルの完全に独立したCalx Viveによるサウンドトラックを用い、それぞれが相互作用なしに独立した形で披露された川久保玲によるComme des Garcons 2020-21年秋冬コレクション。
"Is it impossible to make something completely and utterly new, since we are all living in this world?"という川久保の問いとそれに対する"Continuing my work as a perpetual futurist, I worked from within the CDG world."という自身の回答が今回のコレクションのベースラインとなる。

"Neo Future"と題されたコレクションは、Lumps and Bumps(1997SS), Broken Bride(2005-06AW), White Drama(2012SS), The Future's in Two Dimensions(2012-13AW), Not Making Clothes(2014SS)といったCDGユニヴァースをディグったミクスチャーとして進行する。身体と衣服の関係性、彫刻、円環、被覆、隆起、反復、フラグメンテーション、ディメンション、そして、レースのベールに見られる宗教性。全てを解体し、記号と意味を溶かした抽象性の泉から汲みだされるプリミティヴな高純度のオブジェクトとその組み合わせ。
捨象と抽象、概念放棄による本質や超越へのアクセスが老練な彼女のクリエイションの中心に存在し、それによって新しい何かを生み出そうとする企図があります。

いつものように受動ではなく能動を求めるコレクションで、受け手側に理解の範囲が求められますね。一般的なコレクションブランドのようにお金を出して購入し、着用すれば良いという怠惰でインスタントなものではありません。

Tim Blanksが書いているようにコレクションタイトルの"Neo"には「新しい」の他に「復活」という意味があり、過去の広範なアーカイヴを用いたコンピレーションは「再臨」の意味があります。各Lookが独立した可能世界も持ち、複数性のある未来を描くアルティメットCDGユニヴァースですが、共通項としてあるのはクリエイティヴィティやインスピレーションそのものを具体として抽出する試みだと言えるでしょう。

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