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Dior homme 13-14AW Collection

Michel GaubertがミックスしたAnn Clarkの"Our Darkness"をサウンドトラックにセットして行われたKris Van AsscheによるDior homme 2013-14年秋冬コレクション。
今回のコレクションのインスピレーションソースとなったのは、1997年に公開されたSF映画"Gattaca"。クリスによれば、「Gattacaは、健全な精神と肉体を構築するという完全性の追求に関するものでした。そしてそれは、私がこれらのコレクションで実現しようとしているものです。」とのこと。

シミ一つ無いクリーンルームのように清潔なピュアホワイトのランウェイに、メンズウェアのプリンシプルに則った鋭く厳格なスキニーシルエットのブラックスーツが描かれる。前任者の遺したヘリテージである"skinny"をKris Van Asscheらしく"sporty"と言い換え、それを未来へと接続することでデフィレは進行する。
アトリエの技術の高さを静かに誇示するしなやかなシルエットのテーラリングとその心地良い滑らかな質感表現。多用されるジッパーとメタル・バックルがフューチャリスティックな空気を運び、ブラックと時折光るホワイトの明確なコントラストが描かれる男性像にシャープな印象を与える。ネオプレンとテクニカルキャンバスの素材使いはサイエンティフィックな気分を際立たせ、トライアングルとサークルを組み合わせたエニグマティック・グラフィックスが近未来の何かを暗示する。

50年後の未来ではなく、今日の延長線上にある明日のためのファッションとして提示されたコレクションは確かにリアリティがありますが、未来の描き方が少しステレオタイプ過ぎる感じもありましたね。彼の場合は世界観やストーリーを直接語るよりも、テクニカルにデザインを追及していくクリエイションが得意なのでしょうがない部分もあるかなと思いますが。
多くの場合、表現とはある特定のフィルターを通したリプレゼンテーションでしかありませんが、そこに単一性と正統性を与えるのがデザイナーのデザイン・アイデアであったり、伝統あるアトリエの技巧であったりするのでしょう。

Style.comのMatthew Schneierのレビューにおいて"essentialism"というキーワードが使われていますが、クリスのミニマリズムの中には確かにエッセンシャリズムという側面があるかなと思います。彼のデザインする服からは基本的に色気をあまり感じませんし、思わせぶりな演出も無く、デザインしたものをそのままストレートに表現することが多いですからね。

最後にGodfrey Deenyのレビューが面白かったので少し書いておきますが、John GallianoとHedi Slimaneの頃のDiorはウィメンズとメンズのコレクションの方向性が全く違っており、とても同じブランドだとは思えなかったが、現在のRaf SimonsとKris Van AsscheによるDiorはウィメンズとメンズの同期がとても良く取れている、という意見は確かに納得できるかなと思います。
そして、いつものようにFront RowでショーをチェックしていたKarl Lagerfeldが"Nobody has better quality than Dior Homme. I should know, I wear it all the time,"と発言したように、彼がDior hommeを着る理由はそのクオリティの高さにあるというのもカールらしい話ですね。

アトリエの技術に裏打ちされたテーラリングに基づいたクリエイションには通底して厳粛さがあり、クリスはそれを"calmness"と呼んでいるのだとか。波の無い穏やかな水面に映る澄んだ景色のような空気感は、パーフェクションを追求する創り手の姿勢を正しく表現しているような気がしますね。

via style.com wwd.com nytimes.com showstudio.com tFS

posted by PFM