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"Lost + Found", "Good News" - David LaChapelle

David LaChapelleの作品集、"Lost + Found", "Good News"
今回の2冊の本は、1996年の"LaChapelle Land"とその続編となる1999年の"Hotel LaChapelle"。そして、2006年の"Heaven to Hell"に続く彼のアンソロジーとなる最後の作品集とのこと。内容は80年代の作品から2017年のものまで、多くの作品が収録されています。

劇的でケバケバしく、グロテスクに美しく、性的表現をポップでユーモラスに昇華し、宗教画的な崇高さと大衆文化のキッチュなシュルレアリスムが同居した超常的な作品群。情報量が過剰で、感情の爆発が優越しており、多量のエネルギーが作品内に内在しています。ポップスターのキャラクター性をカリカチュアライズして捉えた作品も彼のトレードマークですね。
時代性ももちろんありますが、表現がデジタルではなく、アナログに軸足があるというのも彼のクリエイションの生々しさにはよくあっています。

17、8才の時にAndy Warholに見いだされ(当時、彼の友人にはKeith HaringやJean-Michel Basquiatがいた。)、Interview Magazineからスタートして華々しいキャリアを築いてきた彼ですが、2006年に一度燃え尽きてハワイのマウイ島の農場で暮らすということを経験しています。彼によると、「私は美しさやファッション、ビューティーが好きです。これらはいつも文明と共にありましたが、そのプロパガンダから逃げなければなりませんでした。私がすべてを辞める時、これ以上もう誰もポップスターを撮りたくなかったです。私はそれらに苦しんでいました。」とのこと。

彼は双極性障害を持っており、躁病と不眠症からワーカホリックになり易かったと過去のインタヴューで話しています。不眠で躁状態で創られた作品と聞くと彼の作品は納得してしまう感じがありますね。基本的にハイテンションな作品が多いですので。
これで個人的に思い出したのは、Dior時代のJohn Gallianoのことですね。彼も高エネルギーの作品を創っていましたが、2011年のあの事件で強制的にある意味で燃え尽きるという結果になってしまったので。普通の精神状態で描くのが難しいような作品を創っている創り手は、ワーカホリック気味になり、どこかでバーストしてしまう傾向が強いと言えるでしょうか。

更に、インタヴュー内では芸術的欲求を商業的現実と調和させるのが難しくなっているという話をしています。内容としては、2005年6月にVogue Italiaのために撮った写真が2か月後の8月にアメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナとリンクしてしまったということで、編集者からいろいろ言われたというエピソード。彼は環境と地球温暖化について考えてそれを撮ったとのことですが、まさか2か月後に大型ハリケーンが襲来して作品と同じような現実が現れるとは思ってもいなかったでしょうね。
芸術的欲求と商業的現実のバランスという観点で言えば、ここ数年はポリコレの問題があるでしょうか。表現の自由と道徳や倫理の摩擦は昔から議論される問題であって、これはいつまでもついて回るものですね。

今回の2冊の作品集を見ながら思ったことは、現代においてこういった作品は中々成立し得ないということ。創り手のエネルギー、テクニック、センス、そして、被写体となるモデルや時代を映すポップスター、それらを上手く編み上げて読者に届けるメディア。最後にそれらを支える多くの予算、といったピースが組み合わさって成立していますので。
写真表現の可能性が本気で信じられ、それらが追及された時代、というのも彼の作品集から感じることができるかもしれませんね。

posted by PFM